Drop.013『 WhiteCuracao〈Ⅱ〉』【2】
「勿論合うさ。君のお手製だからね。――いつもの事だけど、口に合わない方が難しいよ」
桔流は、それに、酷く嬉しそうに笑った。
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二人がお決まりのやりとりを交わした後。
花厳が、手土産の上質なチーズやつまみたちを一旦冷蔵庫に入れ、席に着くと、桔流は言った。
「今日は、早摘みワインを用意してみたんですけど、――ちょっと奮発して、いつもより良いやつにしてみたんです。――これも、お口に合うといいんですが」
花厳はそれに、嬉しそうに言う。
「早摘みワインか。――そういえば、あまり飲んだ事なかったな。――桔流君が選んでくれた事もあるし、楽しみだよ」
桔流は、その花厳の言葉にまたひとつ嬉しそうに笑うと、桔流のグラスに、丁寧にワインを注いだ。
グラス上では、美しく艶めくドレスを舞わせるようにして、深紅が舞台を満たしてゆく。
花厳は、その美しさを楽しみながら、深紅を躍らせている想い人の白く美しい指にも、ふと目をやる。
贅沢にも、今となっては度々と間近で味わう事が出来るようになった、そのひと時は、花厳にとって、かけがえのないもののひとつになっていた。
「注ぐよ」
そして、桔流にとっても、それは同じだった。
花厳がそうであるように、桔流も、グラスを満たしてゆく花厳の姿を見るのが好きだったのだ。
だからこそ、自身がグラスを満たした後に、花厳に声をかけられると、その度に自然と心が躍った。
そんな桔流が、その至福のひと時を堪能し終えた頃。
二人は、ひとつ上品に乾杯をすると、それからしばらく、談笑を楽しみながら、桔流の手料理とワインを十二分に味わった。
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そうして、その晩も、桔流と花厳が、その晩の幸福をたっぷりと味わいきろうとしていた頃。
時刻は、すっかりと日を跨いでいた。
その中、花厳は、ふと思い出したようにして、
「そうだ」
と、言うと、一度席を立った。
すっかりと満足感に浸っていた桔流は、それを不思議に思いつつも、黙したまま見守った。
すると、すぐにリビングへと戻ってきた花厳は、そのまま桔流の向かいの席へと戻った。
そんな花厳は、恐らくは自室から――、何かを持ってきたようだった。
花厳はそれを、トン――と、優しくテーブルに置く。
見ればそれは、光沢感のある、小ぶりな、――瑠璃色の紙袋だった。
その小ぶりな紙袋には、ブランド名と思しき〈B-tail Bless〉という銀色の文字が、上品に印字されている。
(――………………)
それは、ファッションアイテムや化粧品のみならず、ジュエリーでも大変有名な大手ブランドの名である。
桔流は、そのブランド名が印字された瑠璃色の小ぶりな紙袋に――、確かに見覚えがあった。
それは、今から幾分か月日を遡った、とある夜の事――。
バーのメニューが、秋色に移り変わって久しい、とある秋の夜の事――。
その紙袋は、そんな、"あの夜"に見た――、桔流自身が幾度もその手で抱えた――、あの瑠璃色と同じ様相をしていた。




