Drop.013『 WhiteCuracao〈Ⅱ〉』【1】
季節と共に、桔流の心も、少しずつ、その色合い変え始めようとしていた頃。
桔流は、毎年楽しみにしている早摘みワインの中から、毎年選んでいたものよりワンランクほど良いワインを仕入れた。
そんな早摘みワインと共に迎えた、とある週末の事。
桔流は、花厳の喜びそうな、――肉類を思わせる味わいの果実をメインとする、メティ料理の下ごしらえをしていた。
そんな桔流が、丁寧な下ごしらえを進めているのは、桔流の家ではなく、――花厳の家のキッチンであった。
― Drop.013『 WhiteCuracao〈Ⅱ〉』―
メティ科植物の果実の中でも、花厳が特に好んでいるのは、“ラミー梨”という品種のメティであった。
獣亜人族の祖先である獣族たちのうち、肉食性とされる獣族たちは、主に、獣族の中の草食獣を主食としていた。
そして、肉食性の祖先を持つ獣亜人族たちの先祖もまた、獣族と同じように獣族を狩り、その肉を食していた。
しかし、獣亜人族たちの文明が発展するにつれ、獣亜人族たちが徐々に生態系の保護に意識を向け始めるようになると、彼らは、獣亜人族が獣族の肉を食す事自体を、法律や信仰などを通じて禁じていった。
その結果。
現代では、獣族の肉を食す獣亜人族は一人もおらず、その肉類の代用としては、品種改良により生まれた――、祖先や先祖たちが食していた肉類の味や栄養素を持ち合わせる果実である“メティ科植物”が活躍しているのであった。
そのため、祖先が肉食性である獣亜人族たちの多くは、この果実を使用したメティ料理を好む傾向にあるのだが、無論、花厳も例に漏れず――であった。
そのような事から、桔流は、メティの中でも羊肉と似た味わいが楽しめる“ラミー梨”を用意した、というわけなのだが――、そんな花厳は、桔流が家に居ながらも、生憎と在宅ではない。
と云うのも、実は、その日。
花厳は、やや遅い時間帯までかかる仕事の予定が入っていたのだ。
それゆえ、花厳は、一時的に桔流に合鍵を渡す事を提案した。
そして、そのような流れから、結果として、家主が帰宅するまでの間に、桔流がディナーの用意を済ませる運びとなったのであった。
そうして、そんな桔流お手製のディナーが仕上がったところで、玄関ドアの開錠音が、家主の帰還を報せた。
桔流は、その音に、耳と尾をぴんと立てると、
(おお。我ながら、タイミングバッチリ)
と、満足げに笑んだ。
そんな桔流が、パタリパタリと玄関口に向かうと、そこでは花厳が丁寧に靴を脱いでいた。
桔流は、そこへ出迎えの言葉をかける。
「お疲れ様です。おかえりなさい」
花厳は、それに心底嬉しそうにして目を細めると、微笑んで言った。
「ただいま」
そして、それから自室に荷物を置き、足早に帰宅後のルーティンを済ませた花厳は、リビングに入るなり、テーブルに並べられた桔流の手料理を称賛した。
「わぁ。今日もまた、凄く美味しそうだね……」
それに笑むと、桔流は嬉しそうに言った。
「ふふ。お口に合うといいんですけど」
そんな桔流に、花厳は、今や二人の間ではお決まりとなっている言葉を贈った。




