Drop.001『 Recipe choice〈Ⅰ〉』【5】
「はい……」
法雨は、そんな桔流を励ますように言う。
「ふふ。お疲れ様。――大丈夫よ」
――自分の発見が一歩遅かった事で、男にこの品を手渡せなかった。
その事実に気落ちしているらしい桔流の心情を察し、法雨は優しく続ける。
「たとえ、お渡しできなかったとしても、アナタは素晴らしい判断をしたわ。桔流君。今日は本当にお疲れ様だったわね。――さ、ちょうどいい時間だし、アナタは一度休憩してらっしゃい。――ね」
そんな法雨の励ましに、
「はい。有難うございます……」
と、やはり元気なく一礼した桔流は、未だしょぼくれたままの心を抱え、休憩をとるため更衣室へと向かった。
その間。
(――もし、アレが本当に指輪だったら……、これから会う相手にプレゼントする予定の指輪だったって事だよな……)
桔流はひとつ考え、更に憶測を転じてゆく。
(指輪の贈り物――。もしも――)
もしもあの男が、今夜、“一世一代のイベント”を迎える予定だったとしたら――。
(そんなめちゃくちゃ大事な瞬間に、指輪を忘れたなんて事になったとしたら……――)
「――はぁ……」
(どうか、そんな悲惨な事にはなりませんように……)
その晩。
桔流は、そうして男の無事を切に祈りつつ、拭えぬ自責の念と共に、妙に静かな夜を過ごした。
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