Drop.010『 Stir〈Ⅲ〉』【3】
「――そうやって、心の中の事を何も伝えないから、気遣ってる事も、気遣われてる事も、気付かれず気付けず――、お互いに隠しっぱなし。――だから、最後まで、すれ違い合って、悲しい終わりに辿り着いちゃうんです」
花厳は、そんな桔流の名を呼ぼうとした。
「……桔流く――」
「ねぇ。花厳さん」
しかし、桔流は、それを制した。
そして、花厳の金色の瞳を見据えながら続けた。
「花厳さんが選ぶ選択肢は、本当にそれでいいんですか? ――今回も、“相手を逃がす”っていう選択肢で、本当に合ってますか? ――花厳さんは、いいんですか? ――俺がこのまま……、花厳さんから逃げ切っちゃっても」
桔流の言葉に、花厳の心臓は大きく鼓動する。
そんな心臓を宥めながら、一度体勢を整えると、花厳は、ゆっくりと桔流の隣に腰かけた。
花厳が隣に腰かけると、桔流は再びシーツに視線を落とした。
ベッドに腰掛けながら、上半身を向い合わせるようにした二人の距離は、どちらかが少しでも手を伸ばせば役目を終える。
そんな距離を敢えて保ちながら、花厳は、ゆっくりと言葉を紡いでゆく。
「君は……、それで後悔しないのかい……。――君はさっき、俺が伝えなければ、俺の気持ちは分からないと言ったけど、――今は、もう、――今の俺が、君をどうしたいか、分かってるはずだよ。――それとも、本当に検討もつかないのかい?」
桔流はそれに、視線を落したまま言った。
「――……どうでしょうね」
花厳は、そんな返答に苦笑し、小さく息を吐くと、真剣な面持ちで言った。
「――分からないのなら、尚の事」
「後悔しないかとか、――そんな、試してもない事の結果なんて、俺には分かりません」
そんな花厳の言葉を、桔流は再び遮るようにして言った。
「――後悔するかどうか、試さないでも、花厳さんには分かるんですか?」
「それは――」
花厳がそれに戸惑うようにすると、桔流は続ける。
「――分からないんですよね。 ――分かってたら、俺を大切にしたいって思ってくれる花厳さんは、俺が幸せになれる選択肢を教えてくれるはずですもんね」
「……うん。――そうだね」
「でも、花厳さんは、教えてくれなかった。――それは、花厳さんも未来が分からないから。――試してみないと、結果が分からないからです。――そうですよね」
「……うん。そう」
花厳は頷く。
「――なら、花厳さん」
そんな花厳の名を呼ぶと、桔流は顔を上げ、花厳を見た。
花厳もまた、その桔流と視線を交わす。
そのまま、桔流は紡ぐ。
「――花厳さんも、選んでください。――俺は、さっき選びましたから。――因みに、今回の選択は、凄く簡単ですよ。――今。花厳さんの目の前にある選択肢は、二つしかないですからね」
「“二つ”……?」
花厳が尋ねると、桔流は頷く。




