Drop.009『 Stir〈Ⅱ〉』【1】
桔流と花厳が、色とりどりのマカロンで心を満たしてから幾日かが経ったその日。
(あ。これ美味そう。――でも、明後日は、花厳さんがワイン用意してくれるって言ってたし。――これは、その次の食事で出そうかな……)
ネットショッピング中に見かけた季節モノのワインを眺め、桔流はふと、そんな事を考えていた。
その翌々日の事。
桔流が目をつけていた“だけの”――その季節モノのワインは、美しい飾りを施され、無事、桔流のもとへとやってきたのであった。
― Drop.009『 Stir〈Ⅱ〉』―
「――花厳さん。やっぱ、滅茶苦茶モテるでしょう……」
無事に手元にやってきた季節モノのワインを見つめ、半目がちに桔流は言った。
花厳は苦笑する。
「や、やだな。本当にそんな事ないってば。――どうして突然そんな事……――あ。もしかして、これ、飲んでみたいワインだった?」
そして、桔流の様子から状況を察したらしい花厳が悪戯っぽく尋ねると、桔流は、
「………………まぁ」
と、わざとらしく不満げな返事をした。
冗談と分かっているからか、花厳はそんな桔流の反応に楽しげに笑うと、
「良かった」
と言って、酷く嬉しそうにした。
(なんか、ここまで心の中見透かされると、逆に悔しい……)
そして、桔流がそんな悔しさに悶々としていると、その様子も愛らしく感じたのか、花厳は、
「あはは」
と、無邪気に笑った。
そんな花厳の笑顔に、桔流は、
(あと、この笑顔が悔しい˝……! 可愛い˝……!)
と、心の中で悶絶した。
実のところ、最近よく見かけるようになった、この――花厳の少年のような表情や一面に、桔流は大分と“やられて”いた。
自身より三つほど年上のこの男は、いつだって自分よりも一枚上であった。
無論、時には、桔流の追及に対して動揺を見せる事はあった。
だが、例えそのような一面があっても、花厳の“落ち着きのある大人な男性”――という印象が揺らぐ事はなかった。
しかし、最近。
そんな花厳が、不意に、少年のような無邪気さを見せるようになったのだ。
そして、その結果。
桔流は、その花厳が見せるようになった新たな一面に――、そのギャップに――、見事に心を“やられた”のであった。
しかし、これほどまで心乱されるようになっても、桔流は未だ、花厳への恋心を抱く事は出来ていなかった。
そのような事から、桔流は、此度も再び眼前に現れた“花厳少年”に心乱されながら、ひとつ思った。
(はぁ……。――花厳さんのギャップにこんだけテンション上がるんだから、俺が普通なら、もうとっくに恋人同士にもなれてたんだろうな……)
そんな桔流は、そう思い、その事実を改めて自覚したからか、やんわりと胸が締まるのを感じた。
そして、ふと、数時間前の事を思い出すと、今度は、とある人物に宛てて、桔流は思った。
(――俺……、やっぱ、新しい恋なんて、無理ですよ……。――法雨さん)
その数時間前の事。
バーでの仕事を終えた桔流が、更衣室で仕事着から着替えていると、そこへ、その日は遅出となっていたバーの店長――仙浪法雨がやってきた――。
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その晩。
花厳との食事を控えていた桔流は、仕事を終えるなり更衣室に入ると、手早く仕事着を脱いだ。
そして、桔流が私服に袖を通していると、遅入りの法雨が更衣室へと入ってきた。
そんな法雨は、
「お疲れ様」
と、桔流に挨拶をすると、歩みを進めた。




