Drop.008『 Stir〈Ⅰ〉』【3】
「――お待たせしました。――花厳さんは、ブラックで良かったですよね」
花厳は、そんな桔流に頷くと、やんわりと苦笑する。
「うん。ありがとう。――いつも用意してもらってばかりで悪いね」
桔流はそれに、ひとつ笑み、
「ふふ。とんでもないです」
と言うと、苦笑して続けた。
「――こちらこそ、いつも頂いてばかりですみません」
すると、花厳は笑って言う。
「それは気にしないで。――前も言ったけど、これは、俺がしたくて勝手にしてる事だから。――迷惑でなければ、遠慮なく受け取ってやって」
「迷惑なんて――」
そんな花厳に、桔流は嬉しそうに頬を染めて言った。
「――花厳さんからの贈り物は、全部、嬉しい物ばかりですから」
花厳が起こす奇跡に関しては納得のいかない桔流だが、こうして、好意からの贈り物をしてもらえるのは、やはり嬉しかった。
勿論の事。
そんな桔流も、初めのうちは、何でもない日にプレゼントを贈られる事には抵抗を感じた。
「あ。開けてみてもいいですか?」
「うん」
だが、花厳は、そんな桔流の抵抗感をも優しく解くかのように、贈り物と共に想いを紡ぎ、桔流の心をほぐしていった。
そして、此度もまた、花厳の言葉が桔流の心を温めたところで、カラフルで華やかなマカロンたちが桔流の目を煌めかせた。
桔流は思わず、小さく歓声をあげる。
そんな桔流に微笑むと、花厳は、想い人が淹れてくれた珈琲を一口味わう。
そして、その満足感のある風味に浸る中、花厳はふと、プレゼントを贈り始めた頃の桔流を思い出した。
――こんな事をしてもらっても、きっと俺は花厳さんを好きにはなれないです。
――だから、花厳さんの大切なお金や時間を、こんな風に俺に使って無駄にしちゃ駄目です。
当時の桔流は、花厳にそう言った。
だが、もとより花厳は、贈り物をするのが好きな性分の持ち主であった。
それゆえ、恋心を抱いている桔流が相手ともなれば、迷惑でない限り、毎日でもプレゼントを贈りたいと思うのは必然だ。
そのような事から、花厳は、そんな花厳の気持ちも、桔流に正直に伝える事にした。
すると、桔流はそれに戸惑いながらも、次第に花厳の気持ちを受け入れてくれるようになっていったのだった。
そして、その結果。
最近に至っては、贈り物を抵抗なく受け取り、素直に喜んでくれるようになったため、花厳も一安心しているところであった。
そんな花厳の前で、桔流は、彼を喜ばせるべく順番待ちをする彼らの中から、レモン色のマカロンを手に取ると、上品に口にするなり、感嘆を紡いだ。
「美味しい……」
花厳は、その様子を愛おしげに眺めた後。
桔流に続き、純白のマカロンを行儀よく頂くと、同じく称賛した。
「ほんとだね。――これは買ってきて良かった。――限定モノなのが惜しいね」
「本当ですね」
それに賛同した桔流は、続けてレモン色の残り半分を頂くと、またひとつ幸せそうに笑んだ。
そうして、二人がその後も幾つかの幸せを堪能し終えた頃。
ふと、空席の多くなった箱の中身を見つめると、桔流は花厳の名を呼んだ。




