Drop.008『 Stir〈Ⅰ〉』【2】
花厳と桔流が“ただの友人ではなくなったあの日”以降。
度々と問いを繰られるのみでなく、桔流は度々と、花厳からプレゼントを贈られる日々をも過ごしていた。
しかし、花厳からのプレゼントは、ただの贈り物ではなかった。
驚くべき事に、そうして贈られるプレゼントの品々は、どれも“桔流が確実に喜ぶ贈り物”ばかりであったのだ。
また、さらに驚くべきは、その贈り物の多くが、花厳には一言も伝えていない――、桔流が“欲しいと口にすら出していない”――、桔流が欲しいと“思っていただけ”の品々である――という事だった。
そして、そんな驚くべき花厳の贈り物は、此度もまた、桔流を大いに喜ばせる事に成功したのであった。
「このマカロン、すっごい食べたかったんですけど、なかなか買いに行くタイミングがなくて諦めてたやつなんです。――だから余計に嬉しいです。――本当にありがとうございます」
しかし、そうして大いに喜ぶ桔流であったが、そんな奇妙な奇跡が再び起こってしまった事で、
(――やっぱ……、心の声も聞き取れる盗聴器――みたいなヤバい秘密道具、どっかに仕掛けられてる……?)
という、花厳への非現実的な疑惑も、また一段と高まったのであった。
だが、そんな疑惑が浮上している当の花厳は、怪しい素振りも見せず、相変わらずの爽やかな笑顔で桔流に言った。
「――本当? たまたまデパートで見かけて、桔流君が好きそうな感じのお菓子だったから、限定品だしと思って買ってみたんだけど。正解だったね。――買って良かったよ」
桔流は、そんな花厳の言葉に、
(本当か~?)
と思いながら疑いの目を向けるが、花厳に嘘をついているような様子は見受けられなかった。
しかし、それでも疑念を拭いきれない桔流は、そんな花厳の様子を伺いながらも、にこりと笑んで言った。
「あの、花厳さん。――紅茶と珈琲、どちらがいいですか? ――せっかくですし。一緒に食べてください」
花厳は、それに、少しばかり眉を上げると言った。
「え、いいの?」
桔流は、笑顔で頷く。
「勿論ですよ。――一人で食べるのも寂しいですし」
そんな桔流の言葉に、花厳は楽しげに笑った。
「ははは。そうか。分かったよ。君は本当に誘い上手だね。ありがとう。――それじゃあ、お言葉に甘えて。――俺は、珈琲が嬉しいかな」
花厳が言うと、桔流はにこりと笑み、
「かしこまりました」
と言い、慣れた仕草でオーダーを承った。
そして、そのまま、キッチンのワークトップで珈琲と紅茶の準備を始めた桔流は、その間、
(秘密道具じゃないとすると……霊視……?)
と、花厳の奇跡のトリックを解き明かすべく、幾度目かの推理を展開した。
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それからしばらくの推理を展開する中、花厳の謎を追い求めた桔流がついに未来の世界に足を踏み入れた頃。
桔流の手元では、――美しく煌めく水面を揺らがせ、心地よい香りをふわりと舞わせる、温かい珈琲と紅茶が仕上がった。
それにより、再びの推理を切り上げた桔流は、香り高い両者を手慣れた様子でテーブルに運ぶと、花厳に言った。




