Drop.008『 Stir〈Ⅰ〉』【1】
花厳からの提案をきっかけに、桔流と花厳が“ただの友達ではなくなった”その日以降。
花厳は、これまで以上に“桔流への問い”を重ねるようになった。
食べ物の好き嫌いやアレルギー、好物、苦手なものに始まり、あらゆる物事に対する桔流の価値観についてなど、――その問いの内容は様々だった。
そして、そんな日々を経て、紅葉もいよいよ見納めを感じさせるようになったその日。
桔流は、洋菓子の好みに関する非常に細かな問いへの回答を送信すると、
(――俺。今日もすっげぇ研究されてる……)
と、花厳の熱心さに改めて感心した。
(でも、不思議だなぁ……)
その中、桔流は、ふと、過去の事を思い出しながら思う。
桔流は、これまでの人生において、モテ期とは云えない――という期間を過ごした経験が皆無に近い。
そのため、過去には、執拗に桔流の事を知りたがる者たちに付きまとわれるような時期も多かった。
中には、告白を断ったにも関わらず執拗に質問を重ね、桔流のプライバシーを侵すようなものやデリカシーのない問いを繰り返す者も居たほどだ。
実のところ、そのような不快な経験も一因となり、大学を卒業して以降、桔流は、より一層、恋愛事を避けるようになったのだ。
つまり、自身の事を根掘り葉掘り尋かれるような日々は、桔流の中では不快な日々でしかないはずだった。
しかし、今回は違った。
(前に、散々質問攻めされた時はあんなに嫌だったのに、なんで花厳さんからだと平気なんだろう……?)
云ってしまえば、過去に質問攻めにされていた時と、今現在、花厳にされている事は同じだ。
だが、花厳から投げかけられる問いは、どれも答えやすい上、教える事にも何故か抵抗を感じなかった。
(前にされてヤだった質問もあったのに、花厳さんに尋かれた時は全然ヤな感じしなくて、無意識に答えちゃってたし……。それに――)
桔流は、そこでふと、数日前の花厳とのやりとりを思い出し、心が温かくなるのを感じた。
(たまに、尋かれて嬉しいみたいな気持ちになる時もあるんだよな……)
そんな桔流は、思うと、何気なくスマートフォンを手に取る。
そして、メッセージ欄に表示された花厳の名を見ると、やんわりと眉根を寄せ、くすりと笑った。
(ほんと……変なの――)
― Drop.008『 Stir〈Ⅰ〉』―
「こ、これ。――本当にいいんですか?」
「勿論。口に合えばいいけど」
美しい紅を纏っていた木々も、すっかりと葉仕舞いを始めた頃のとある日。
桔流と花厳は、桔流宅にて、幾度目かのお茶会を楽しんでいた。
そんな中、愛らしくもしとやかに着飾った菓子箱を持参した花厳は、桔流の言葉に爽やかな笑顔を返した。
花厳が持参したのは、数日前から桔流が食べたいと“思っていた”――季節限定かつ数量限定のマカロンであった。
無論、そのマカロンを食べたいと“思っていた事すら”、花厳には言っていない。
(また、欲しいモノ当てられた……)
実のところ、“あの日”以降から、こうして花厳から贈られるプレゼントには、このような奇跡とも云える偶然が付いて回っていた。




