Drop.007『 Ice and a litttle water〈Ⅱ〉』【6】
(――だから、まず、桔流君には、その考えを捨ててもらわないといけない。――そうしないと、桔流君はこの先もずっと、相手を“好きになる努力をするだけ”の恋愛しか出来なくなってしまう)
なんとしてでも、“恋愛は努力をして相手を好きになるもの”という思い込みから、桔流を解放しなくては――。
「――でも、花厳さん。――じゃあ、俺は、どうやって花厳さんを好きになればいいんですか?」
桔流は、不安げに言う。
そんな桔流を愛しげに見やり苦笑すると、花厳は言った。
「何もしないでいいよ。――“愛”は、自然と芽生えるほかに、意識して育んだりもするけれど、“恋”は違う。――恋はね、多くの場合、無意識に、自然と芽生えてしまうものなんだ。――意識して芽生えさせるものじゃない。――だから、桔流君は、ただ自分の気持ちに正直に過ごしてくれていればいい。意識して好きになろうとか、良いところを見つけようとかも、しなくていいからね」
「ほ、本当にそれでいいんですか……? ――本当に、俺は、何もしなくていいんですか?」
未知の事ゆえか、桔流は縋るような表情で確認する。
そんな桔流に、花厳は微笑みながら頷く。
「うん。――一応、ヒントを伝えておくと、もし桔流君が俺の事を好きになるとしたら、知らないうちに好きになって、気付かないうちに恋をしてくれてると思うよ。――だから、その気持ちに気付いたら、教えてね」
桔流は、その花厳の言葉に悩むようにするも、
「わ、分かりました。とりあえず……やってみます……」
と、緊張気味に言った。
「ははは。うん」
花厳は、そんな努力家すぎる桔流に頷くなり、
(“やってみます”――か。――“そういう努力”を捨てるのにも、時間が要りそうだな)
と、ひとつ思いながら、愛おしげに苦笑した。
かくして、桔流が花厳からの提案を呑んだその日から、桔流の“努力される日々”が、幕を開ける事となった――。
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