Drop.007『 Ice and a litttle water〈Ⅱ〉』【4】
「……すみません」
そんな桔流の耳や尾はすっかり垂れ、桔流本人と同じように元気をなくしてしまった。
しかし、そうして黙した桔流に、花厳はひとつ微笑み、先ほどと変わらぬ優しい声色で言った。
「――桔流君。今の話は、俺が勝手に言い出した事なんだから、君は謝らなくていいんだよ。――俺の方こそ、突然こんな事を言い出してごめんね」
「あっ、い、いえ、あの、俺の方こそ――」
その謝罪を受け、ハッとして顔を上げた桔流は、咄嗟の言葉を紡ごうとした。
しかし、そんな桔流の言葉を、
「――でも、申し訳ない」
と言い、やんわりと制すと、花厳は続ける。
「――俺って結構、諦めが悪くてね……」
「?」
すると、そんな花厳の言葉を不思議に思った桔流は、未だ不安そうな表情を浮かべながらも、花厳の言葉を待った。
その様子を一目すると、花厳は今一度詫び、続ける。
「ごめんね。――実は俺。もう、君に何を言われても諦められないくらい、君の事を好きになってしまったみたいなんだ。――だから今の俺は、君をただの友人として見る事は出来ない」
「え、――で、でも」
「だから、――桔流君」
さらりと告白され、桔流は動揺した。
しかし、花厳は、そんな桔流をもやんわりと人差し指を立て制すると、今度はにこりと笑んで言った。
「――こういうのはどうだろう?」
そんな花厳に困惑しながらも、桔流はとにかく黙し、花厳の声に集中した。
そうして、一心に花厳の言葉に耳を澄ませる桔流の双眸を、その金色の瞳で捕えながら、花厳は続けた。
「俺はこれから、君に“好き”になってもらうための努力を始める。――だから、その過程で、もし君が、俺に恋愛感情をもてて、俺の事を本気で“好き”になれたら、その時は、――正式に、俺の恋人になって欲しい。――どうかな」
「………………」
桔流は、そんな花厳の提案を受け、言葉に窮した。
しかし、その様子を見ても、花厳はにこやかに続けた。
「――とはいえ、今はまだ、付き合う事まで考えなくていいよ。――今は、俺が一方的に桔流君に惚れてるだけで、桔流君は俺の事を好きなわけじゃないからね。――だから、さっきの告白に対する返事も、勿論しなくて大丈夫」
「――で……でも……」
そんな花厳に困惑しながらも、桔流はなんとか言葉を紡ぎ、不安げに問う。
「もし、努力してもらっても、好きになれなかったら……?」
その問いに、花厳は優しく微笑む。
そして、ゆっくりと言った。
「その時は、――友人として過ごそう」
桔流はそれに、弾かれたように紡ぐ。
「えっ、――でも、――それじゃあ、花厳さんの気持ちが……」
「大丈夫」
そんな桔流に、花厳は変わらず穏やかに言った。
「?」
桔流はそれに、不安げに首を傾げる。
花厳は言う。
「勿論、俺は、その時も君の事が好きなままだろうね。――でも、君が俺の事を好きになれなくて、恋人同士になれなかったとしても、君は、それ以降も変わらず、友人として、今と同じように、俺と食事をしてくれるんでしょう?」
「え?」
「違う?」
「い、いえ……」
花厳が優しく問うと、桔流は首を振る。




