Drop.007『 Ice and a litttle water〈Ⅱ〉』【1】
花厳は幼い頃から運動能力が高く、運動においては常にクラスで一番だった。
さらに云えば、礼儀正しく、人当たりの良さもピカイチだったため、大人たちからの評判も非常に良かった。
それゆえ、“運動の得意な子がモテる法則”の後押しもあり、花厳の少年時代は常にモテ期であったのだ。
― Drop.007『 Ice and a litttle water〈Ⅱ〉』―
そんな花厳の華々しい幼少期を、直感という名の千里眼で見抜いたらしい桔流は、ズバリ言った。
「――で、そう言う花厳さんも、かなりモテたクチですよね」
「えっ……」
花厳はギクリとする。
そして、桔流の目が――以前、花厳の職業を追及していた時と同じ、あの“狩人の目”になっている事に気付くと、花厳はぎこちなく言った。
「そ、そんな事ないよ」
しかし、今の桔流に下手な誤魔化しは効かない。
「ふ。誤魔化そうとしても無駄ですよ。――滲み出てますからね」
「ハ、ハハハ」
だが、花厳も、今回ばかりは負けるわけにはいかなかった。
いかにしても、桔流の話を掘り下げたかったのだ。
そんな花厳は、
「――ま、まぁ、俺の話は置いておいて」
と、なんとかその場を宥め、スポットライトを桔流へと戻す。
「その、――桔流君はさっき、“その後からずっと、誰かのカレシ、カノジョだった”――って言ってたけど。――カレシとカノジョ。そのどちらの立場であっても、過去に付き合った人は誰も好きになる事が出来なかったの?」
そんな花厳からの問いで、改めて舞台の主役に戻された桔流は、ひとつ唸る。
「う~ん。そうですね……」
実のところ、桔流が同性と付き合うようになったのは、大学生になってからの事だった。
「高校生の頃までは、女の子としか付き合った事なかったんですけど」
高校時代の桔流にとって、友人や家族と過ごす時間も、非常にかけがえのないものであった。
それゆえ、恋人との時間を最優先にする事が出来なかった桔流少年は、当時の恋人たちを喜ばせる様な恋愛が出来なかったのだ。
そのような事もあり、中学から高校を卒業するまでの間は、告白を受けては付き合い、冷たいと言われてはフラれ、フラれるとすぐに別の女子から告白され、また付き合い――という、忙しない日々を過ごす羽目になった。
「なるほど。――そんな感じが何年もとなると、少なくとも女性との恋愛には、良いイメージはもてなくなりそうだね……」
「はい……。――だから、じゃあ男同士ならどうかなって思うようになって」
そんな桔流は、そのような考えもあり、大学で初めて同性から告白を受けた事をきっかけに、――“自身がカレシ側として過ごす”、同性との恋愛を経験した。
また、その頃から、女性との恋愛を避けるようになった事もあり、それ以降の桔流は、同性寄りの恋愛をするようになったのだった。
そして、それからしばらくの月日が経ったある日。
ついに、桔流を“カノジョ”として恋人にしたい、という相手が現れた。
だが、それが初めての“カノジョ側”であるにも関わらず、既に恋愛哲学に迷走し始めていた当時の桔流は、それも、――まぁいいか、程度の軽い気持ちで受け入れたのだった。
結果――。
その流れで――少年時代に卒業した童貞に続き、処女をも卒業する事となったのである。




