Drop.006『 Ice and a litttle water〈Ⅰ〉』【5】
「そうなのかい? 全然、そんな事なさそうだけど。――それだけ美人さんだと、告白される事も多いんじゃない?」
「ふふ。ありがとうございます」
対する桔流は、花厳のさり気ない褒め言葉に礼を言うと、手元にあるグラスの淵をゆるりと指で撫で、続けた。
「――確かに、告白される事はまぁまぁあるんですけどね。――ただ、なんていうか、俺……、恋愛とかって、向いてないんですよね……」
花厳は、そう言った桔流の言葉に何かしらの含みがあるように感じ、しばし話を掘り下げる事にした。
花厳は、何気なく問う。
「“向いてない”って……、――例えばそれは、恋人が居るのが面倒くさいとか、そういう感じかい?」
「――えっ。あぁ。えっと~………………、――……そういうわけじゃ、ないんですけど」
花厳の問いに、何かを考えるようにしながら、桔流は続ける。
「――付き合うの、は……、――……いい……んです。――でも……俺……、――……あ、そう! ――自分から誰かを好きになる事がなくて! ――そもそも、“好き”ってどういう感じか、いまいちピンと来ないんですよねぇ~。――うん。そんな感じです。」
桔流が目を伏せながら視線を巡らせ、何かを取り繕うようにして言葉を並べ切ると、そんな桔流を訝しむ様子もなく花厳は言った。
「なるほど……。――じゃあ、告白されて付き合ってみても、一向に相手を好きになれないまま時間だけが過ぎてしまう――みたいな感じなのかな?」
「は、はい。そうです、ね……。――多分……」
「――で、色々あって結果お別れ、か」
「そ、そうっ。――そんな感じです」
ゆっくりと話す花厳に対し、桔流は妙に駆け足気味な応答をした。
しかし、花厳はそれも気に留める事はなく、続けた。
「――まぁ、桔流君がまだ好きになっていない相手から告白されるわけだもんね。――好きになる前に好きになられて、好きにならないといけない事ばかりが続いたら、それは、分からなくもなるか……。――桔流君みたいな子は、子供の頃からモテただろうし」
「あ、あぁ。まぁ……」
そんな花厳の憶測は、大いに当たっていた。
実際のところ、桔流はこれまでの人生で、数えきれないほどの告白を受けてきた。
「――俺、小学生の時に人生で初めて告白されたんですけど、思えば、その後からずっと、誰かのカレシ、カノジョだった気がします」
そんな話の中、なんとなくげっそりとした様子で過去をチラつかせた桔流に、花厳は笑って言った。
「ははは。女の子は、おませな子も多いからなぁ。――桔流君は、小学生の頃からかっこよかったんだね」
桔流は、それにひとつ唸る。
「う~ん。どうなんでしょう。――かっこいいからっていうか、運動が得意な子がモテる法則の方が強かったかもしれません」
そして、桔流がひとつの見解を述べると、花厳は妙に納得した様子で、
「あぁ。なるほど……」
と、言った。
と云うのも、――花厳がまさにそうであったからだ。
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