Drop.006『 Ice and a litttle water〈Ⅰ〉』【3】
「好きな事は、疲れないんですよ。――だから、申し訳ないなんて思わなくて大丈夫です。――招いておいて、お待たせしちゃうのは、こちらこそ申し訳ないんですけど」
そして、桔流が苦笑すると、花厳は微笑んで言った。
「とんでもない。こちらは何もしてないのに手料理を振る舞ってもらえるんだから。――それに、美味しい料理は、待っている時間も楽しいものだからね」
すると、桔流はまた嬉しそうに言った。
「ふふ。花厳さんは、いつもお上手ですね」
桔流は、生粋の料理好きであった。
そんな桔流は、それから、花厳と談笑しながら手際よく調理を進め、様々な料理やつまみを美しく盛り付けていった。
そして、最後の一品を仕上げると、
「これで最後かな?」
と、花厳が声をかけた。
「あ、はい! そうです」
それに桔流が頷くと、花厳はにこりと笑んで、キッチンのワークトップから丁寧に皿を持ち上げ、テーブルへと運んだ。
そんな花厳に、
「結局、手伝ってもらっちゃってすみません」
と、濡れた手を丁寧に拭いながら、桔流は言った。
花厳はそれに、笑顔で応じる。
「いやいや。流石に椅子に座ってるだけっていうのは、俺も心苦しいからね」
そして、最後の一品をことりとテーブルの中央に置くと、花厳は続けた。
「お疲れさまでした。――短い時間でこんなに沢山作れるなんて、本当に凄いね。頂くのが楽しみだよ。――ありがとう」
すると、花厳の向かいの椅子を引いた桔流は笑顔を返し、
「ふふ。こちらこそ。――お待たせしてしまってすみませんでした。――どうぞ、花厳さんもかけてください」
と言いつつ、花厳に着席を促した。
花厳はそれに応じ、
「ありがとう」
と、礼を言うと、桔流の向かいの椅子に腰を落ち着けた。
そうして花厳が着席したのを確認すると、桔流は言った。
「お口に合うといいんですけど」
すると、花厳は目を細めて笑み、言った。
「心配いらないよ。桔流君のお手製だから。――口に合わない方が難しいんじゃいかな」
そんな花厳の言葉に嬉しそうにした桔流は、
「ふふ。そうだといいんですけど。――あ、いきなり瓊本酒でも大丈夫ですか?」
と言い、本日の主役――樹神から賜った上質な瓊本酒を手に取り、花厳に示した。
花厳はそれに、変わらぬ笑顔で応じる。
「うん。大丈夫だよ。ありがとう」
「いえ。――それじゃあ」
そして、そう言った桔流が、きんと冷やされた純白の酒瓶から丁寧に瓊本酒を注ぐと、美しい空色の装飾が施された小ぶりなグラスが、澄み渡った清酒でとくとくと満たされてゆく。
花厳は目を細め、その贅沢なひと時を堪能した。
それから、一つ目のグラスが清酒で満たされた頃。
花厳がゆっくりと声をかけた。
「注ぐよ」
すると、桔流は、ひとつ苦笑するなり、
「ありがとうございます」
と、遠慮がちに礼を言い、花厳にそっと酒瓶を手渡した。
花厳は、それに、
「いいえ」
と言い、丁寧に酒瓶を受け取ると、桔流が寄せてくれたグラスに瓊本酒を注ぎ始める。
その間。
花厳は、目の前の美しいグラスについて、桔流に尋ねた。




