Drop.005『 Shaker〈Ⅲ〉』【2】
「だから、新しい恋人のためにも、ちゃんと別れておかないとと思って、少し時間をおいてから、“見てしまった事”と、“別れよう”っていう事を送ったんだ。――ただ……」
そうして、別れのメッセージを送信した後。
恋人から返ってきた反応は、花厳を非常に困惑させるものであった。
「それを送ったら、すぐに電話がかかってきてね」
そうして折り返されてきた電話に出れば、恋人からは花厳への叱責が連ねられた。
――ずっと自分に寂しい思いをさせ続けた花厳が悪い。
――ずっと我慢してきたのに自分を一番にしてくれなかった花厳が悪い。
――自分は悪くない。
スマートフォンの向こうから花厳を責め立て、泣き喚きながら多くの言葉を投げつけた恋人へ、花厳が最期に贈ったのは、そんな彼への懺悔の行いであった。
花厳は、彼への懺悔を込めて、そうして泣きじゃくる彼が落ち着くまで、ただただスマートフォン越しに彼の言葉を聴き、彼の言葉に頷き続けた。
そして、彼が落ち着いた頃。
最後にひとつだけ謝罪をし、改めて別れを告げた。
「――それじゃあ、あの時――“連れが来るかも”とお伝え頂いたのは……」
桔流が尋ねると、花厳は、ふ、と懐かしむように苦笑する。
「寂しいって泣かれて、もういいって怒って帰っちゃった後でもね、いつも、少ししたら必ず電話がかかってきてたんだ。――それで、今どこにいるのか尋かれて、やっぱり話したい会いたいって言ってくるのがお決まりだったから。――その日だけは、もしものためにと思ってね」
「なるほど……」
「多分。――俺が店に居て、自分の席がなかったら、また怒っちゃうから……」
優しすぎるのだ。
苦い笑みを張り付けたまま、穏やかに語る花厳に、桔流はそう思った。
また、その恋人も、決して泣き喚きたくてそうしていたわけではなかったはずだ。
ただ、感情の制御が苦手な上、自身の気持ちを言葉にする事も苦手だったため、泣き喚くしかできなかった。
さらには、精神的にも弱く、子供の面も強かった。
だからこそ、恋人と会えない寂しさを自分で紛らわす事もできず、ただただ押し潰されるしかなかったのだろう。
「あの子は悪くないんだ」
花厳の言葉に、桔流は緩く頷く。
(その人は本当に、花厳さんの事が好きだったんだろうな)
そうでなければ、泣き喚くほどの寂しさに苦しむはずもないのだから。
きっと、彼が他の男を縋ってしまったのも、寂しさに耐えかねての事だろう。
そして、花厳への逆上も、そんな弱い自分を守るための必死の自己防衛だったのだろう。
だが、だからと云って、一生懸命に愛そうとした花厳が悪いという事にはならない。
桔流は、それきり黙した花厳に言う。
「花厳さんも、悪くないです」
「………………」
そんな桔流の言葉に、目を伏せたままの花厳は、言葉に窮しているようだった。
それを受け、桔流は静かに続ける。
「花厳さんが悪いなら、その恋人さんも悪いです。でも、恋人さんが悪くないなら――、花厳さんも悪くないです」
続けられた言葉を受けると、花厳は顔を上げ、桔流を見た。
桔流は、真っ直ぐに紡ぐ。




