Drop.001『 Recipe choice〈Ⅰ〉』【2】
「――あ。秋の新メニュー。召し上がってくださったんですね」
そんな都会育ちの桔流は、先ほどの常連客が食している一品が今秋の新メニューだと気付き、嬉しそうに言った。
常連客は、はにかみながら頷く。
「うん。やっぱり季節限定のメニューは見逃せないからねぇ。――今年のも全部美味しいよ~」
「ふふ。有難うございます。お口に合いましたようで嬉しいです」
桔流が首を傾げて微笑むと、常連客はまたふにゃりと笑う。
「へへへ。こちらこそ。――お腹も心も喜んでるよ~。――あ、それと、雑誌も!」
「あ。雑誌の方も見てくださったんですか?」
桔流が尋ねると、常連客は更に上機嫌になって言った。
「もちろんだよ~。目の保養にもなるし、桔流君が表紙の時はつい買っちゃうんだ~。――今月号も変わらずかっこよかったよ~」
桔流は、そんな自身への称賛にも嬉しそうにすると、首を傾げるようにして笑み、礼を述べた。
「ふふ。そちらもご贔屓にして頂いて、ありがとうございます」
桔流の本職はバーテンダーだが、兼業の雑誌モデルとしても大いに活躍している。
それゆえ、桔流は、バーで働いている際にも、“雑誌を見た”――と言って、モデル業に関する話題を振られる事も多かった。
そんな桔流が、その日も幾人目かの常連客との談笑を終え、テーブルフロアからカウンター内へ戻ろうとした、その時。
桔流はふと、足を止めた。
(あれ……)
そして、とあるテーブル席をちらと見やる。
(まだ来てないのか……)
そのテーブル席には、黒髪の男が座っていた。
その男は、艶のある漆黒の毛並みをもつクロヒョウ族の獣亜人であった。
顔は随分と整っており、体格はがっしりとしている。
実は、そんな人目を引く一人客の男は、入店時、――“後から連れが来るかもしれない”と申し出た客であった。
そのため、その申し出を踏まえた桔流は、男を敢えてテーブル席に通したのだった。
しかし、男がそうして席につき一時間ほどが経過した今も、男の云う“連れ”とやらは現れていないようである。
とはいえ、当の本人に動じた様子はなく、店の入り口を伺う様子もなかった。
テーブルに置いたスマートフォンこそ、たまに確認する事はあったが、それ以外は酒に口をつけつつ、読書にふけるのみであった。
(まぁ、あの感じなら気にしなくても大丈夫か。――元から遅れる予定だったのかもしれないし……)
そして、一度は気になったものの、男のその様子から改めて心配無用と判じた桔流は、温かなキャンドルに照らされた金色の瞳を記憶の隅に残しつつ、バーカウンターへと向かった。
◆
桔流がカウンター内に入ると、バーの店長――仙浪法雨も、店の奥からカウンター内に入ってくるところであった。
二人はそこで、何気ない挨拶を交わした。
「――アラ。お疲れサマ。桔流君」
「あ、法雨さん。お疲れ様です」
そんな店長の法雨は、オセロット族の獣亜人で、生物学上は男性だが、普段から女性を思わせるような口調と仕草で振る舞っている人物だった。
それに加え、中性的な外見の美人である事や、レモン色にダークブラウンのメッシュカラーを交えた艶髪を、女性スタイルのショートヘアに整えている事もあってか、たまに女性に勘違いされる事もあるほどで、――その魅惑的な外見は、店の繁盛をも支えている。
その性格はといえば、まさに姉御肌といったところだ。




