Drop.004『 Shaker〈Ⅱ〉』【5】
「――むしろ、桔流君たちは、俺の我儘を聞いてまた預かってくれたじゃないか。――あんな丁寧に包装された、中身が何かも分からない物を、“お金に換えて店の売り上げの足しに”――なんて言われたら、本来なら、困りますと突き返されてもおかしくなかったんだ。――それなのに、桔流君たちは預かってくれた。――融通がきかないなんてとんでもないよ。――もちろん、迷惑をかけてしまった事は申し訳なく思っているんだけれど、感謝もしているんだ。――あの時は本当に助かったよ。――ありがとう」
そして、そう言い切ると共に、花厳は眉を下げるようにして苦笑した。
その苦い笑みは、桔流の心をやんわりと締め上げた。
桔流は、胸が詰まるような感覚の中、花厳の言葉に小さく応じた。
「……いえ」
その中、ひとつ思う。
(本当に、もう大丈夫なのか……?)
本当に、あの“瑠璃色”の件は、あの日ですべて解決したのか。
この男は本当に、このまま放っておいて良いのか。
桔流は、考えれば考えるほど焦燥感が湧き上がってくるのを感じた。
そして桔流は、その焦燥感に圧されるまま、無意識に花厳に紡いだ。
「――あの贈り物の事……。――本当に、もう、……大丈夫なんですか」
そして、紡ぎ切ってからハッとして、桔流は謝罪する。
「あ、すみません。余計な事を……」
対する花厳は、気まずそうにする桔流に微笑み、落ち着いた口調で言った。
「いや、大丈夫だよ。ありがとう。――“贈り物の事”、か……。――桔流君。――桔流君は、あの日忘れた“贈り物”の中身、何だか分かった?」
その花厳の問いに、申し訳なさそうにしながらも、桔流は正直に答える。
「えっと、大きさから想像した限りでは、――指輪かな、と」
花厳はそれに、にこりと笑んで頷く。
「うん。大正解。――桔流君の想像通り、あれの中身は指輪。――あれね、本当は、あの日恋人にあげる予定のものだったんだ。――でも、色々あって、渡せなくなっちゃってね」
「“色々”……」
桔流がおずおずと復唱すると、花厳は首を傾げるようにして目を細め、優しく微笑んだ。
「気になる? ――といっても、大した話じゃないんだけど」
そんな花厳の様子に、さらに胸が締まるのを感じながらも、桔流は強く思った。
(聞かないと……)
理由は分からないが、この男をこのまま放ってはおけない。
放っておきたくない。
桔流は、慎重に言葉を選びながら、花厳に言葉を紡ぐ。
「――気に……なります……。――失礼ながら、本音を言うと、あの贈り物を預かっていてほしいと言われたあの日から、理由はずっと気になってて……。――なので、お話し頂けるのなら、聞きたいです」
すると、花厳はまたひとつ微笑んで言った。
「そうか。――じゃあ、つまらない話だけど、少し聞いてくれるかい」
「――はい」
花厳の言葉に、桔流はゆっくり頷いた。
そして、花厳の金色の瞳を真っ直ぐに見た。
花厳は、そうして向けられた透き通るようなエメラルドグリーンの瞳を一目すると、次いで、煌めく黒鳶色の水面に視線を落とし、記憶を手繰るようにして、ゆっくりと語り出した。
桔流が、あの“瑠璃色”と出会うきっかけにもなった、とある不器用な恋人たちの恋路についてを、ゆっくりと――。
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