Drop.004『 Shaker〈Ⅱ〉』【3】
「あぁ、いえ。――さっきまで撮影があったので、今はその帰りです」
すると、先ほどまであった桔流の狩人感が消えたためか、少し安心した様子で花厳は言った。
「そうだったんだ。それは、お疲れ様です」
そうして花厳が笑むと、桔流も首を傾げるようにして笑い返し、返礼した。
「ふふ。ありがとうございます。――花厳さんも、お疲れ様です」
「うん。ありがとう」
そして、互いの労いが済み、ようやっとその場の雰囲気が和らぐと、何か思い至ったらしい花厳は、
「そうだ」
と言うなり、桔流に問う。
「――桔流君。この後の予定は?」
桔流はそれに、不思議そうに首を傾げる。
「え? この後ですか? ――この後は、特に何も決まってなくて、一日フリーって感じですね」
そんな桔流に、花厳は、
「そうか」
と言うと、にこやかに問いを重ねた。
「――お昼ご飯は? もう食べたかい?」
桔流は、それに、
「あ、いえ。まだです。――食欲はあるのに、食べたい物が思いつかなくて。――どこにしようか迷ってたんですよね」
と言うと、顎に手を当て、しばし考えるようにした。
そんな桔流に、花厳はまたにこやかに言う。
「なるほど。――じゃあ、桔流君がよければ、これから一緒にランチでもどうかな? 俺も、この後フリーでね。――忘れ物の件で迷惑をかけてしまったお詫びもしたかったし」
桔流はそれに、耳をぴんと立てて問う。
「えっ。ご一緒していいんですか?」
すると、花厳は微笑みながら頷いた。
「もちろん」
昼食処に迷わずに済むという事もあるが、何より桔流は、オフの状態で花厳と話せるという事にわくわくした。
そのため、桔流は、花厳の誘いを喜んで受ける事にした。
「嬉しいです。――じゃあ、ご一緒させてください」
そんな桔流の返答に、花厳はまたひとつ、嬉しそうに頷いた。
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事務所前でのやりとりの後。
桔流と花厳は、近場の落ち着いた雰囲気のカフェで昼食を楽しむ事にした。
ランチ時が過ぎたそのカフェの店内は、穏やかな空気で満ちていた。
その中、カフェの店員が、二人の頼んだ料理を運んできた。
店員は、料理名を告げながら、ことり、ことり、と、テーブルに料理を置いてゆく。
そして、二人分の料理を置き終えると、店員は楽しげに言った。
「――お二人とも、お知り合いだったんですね」
そのカフェは、桔流もちょくちょくと利用しているカフェであったのだが、どうやら花厳もそうであったらしい。
さらには、カフェの常連客である二人とその店員が、世間話を交わせるほどの顔馴染みとなっていた点も同じであった。
「実は、彼が働いているバーに、俺がよくお邪魔してて」
「ご贔屓にして頂いてます」
そんな馴染みの店員に、二人揃ってそう言うと、店員は、
「まぁ! そうなんですね」
と、嬉しそうに言った。
そんな店員は、それから二人と少しばかりの雑談を交わすと、愛想のよい一礼をし、テーブルから去って行った。
二人は、その後ろ姿しばし見送ると、次いで互いに向き直り、“いただきます”と手を合わせ、食事に手を付け始めた。
その中、桔流は、逃がさんとばかりに、花厳の俳優業に関する話題を切り出した。




