Drop.004『 Shaker〈Ⅱ〉』【2】
「そこ。俺もお世話になってる事務所なんですよ」
「――え……、えぇっ?」
恐らく花厳は、桔流がそのビルを“事務所であるらしいと知っているだけ”と咄嗟に判じ、そのビルの実態を誤魔化そうとしたのだろう。
だが、残念ながら、そのビルにも、事務所にも、桔流は長年と世話になっている。
「――そういえば、俺。モデルって事は言いましたけど、どこの事務所に所属してるか――までは、言ってませんでしたね」
そんな桔流がにこやかに笑むと、花厳はややぎこちない笑顔を浮かべて言った。
「……まさか、桔流君の所属事務所って」
桔流は、それにもにこやかに頷く。
「えぇ。俺が所属してるのは、そこの――“ハンプロ”ですよ」
そして、桔流が所属事務所の愛称を告げると、対する花厳は、ついに白旗を振るようにして溜め息を吐いた。
「な、なるほど……」
ようやっと、今の己が――“芸能関係者である”という事を微塵も誤魔化せない状況にある、という事を悟ったらしい花厳は、今度ははっきりと桔流から目を逸らし、気まずそうに後ろ髪を掻いた。
しかし、花厳がそうして降参しても、桔流のハンター魂は、狩りをやめようとはしなかった。
桔流は、さらに花厳を追い詰めてゆく。
「あの、花厳さん。――花厳さんのお仕事って、何をされてるんですか……」
“瑠璃色”がようやっとこの男のもとに帰った、あの日。
姫とひたすらに考えあぐね、実はAV男優なのではないか――などという、とんでもない仮説まで出てしまうほどに謎めいていた花厳の職業。
その真相が、ついに解き明かせる時がきたのだ。
不躾ではありながら、ここまできて、この謎を解き明かさないわけにはいかない。
そんな思いを胸に、桔流は、目を逸らしたまま思考を巡らせているらしい花厳を見上げ、じっとその瞳を見つめ続けた。
そうして、その場にしばしの沈黙が佇んだ後。
ついに観念したらしい花厳は、ぎこちなく言葉を紡いだ。
「――……ええっと、その……一応……――役者~……っぽい……感じ……かな……」
その言葉を受け、丸みを帯びた両耳をぴんと立てた桔流は、さらに花厳に迫った。
「“役者”? 役者っぽい感じって……。――もしかして、花厳さん。俳優さんなんですか?」
実を云えば、桔流は未だ、十二分に困惑したままではあった。
それゆえ、そんな桔流が、
(――じゃあ、“男優”ってとこは、合ってたのか……)
などと思いながら尋ねると、花厳は照れくさそうに言った。
「――俳優って言われると、なんだか気恥ずかしいけど。うん。――そんな、ところかな」
どうりで顔も体格も良いわけである。
桔流は、花厳のその整いすぎているルックスを改めて一目し、心底腑に落ちたような気分になった。
そして、真相解明により桔流の狩猟熱もようやっと落ち着いたところで、永らくの謎が解けた余韻に浸っていると、一刻でも早く話題を変えておきたかったらしい花厳が言った。
「ところで、桔流君は? 今日は、お買い物かな?」
そんな花厳の言葉で我に返った桔流は、はたとした様子で答える。




