Drop.003『 Shaker〈Ⅰ〉』【3】
「いやさ……、どれか、じゃなくて。花厳さんの仕事の件なんだけど――」
「う……うん……」
「花厳さんって、顔もガタイも良いだろ? でも、そんなルックス良しが恥ずかしくて言えない職業って何があるかなって考えて思ったんだけど……――もしかして、――AV男優とかなんじゃ、って……」
「えっ……えぇ~~~!?」
「ちょ、姫……っ」
声こそ先ほどと変わらず小さくあったが、あまりの衝撃に、姫の動作は十分に大声になっていた。
そんな姫を、桔流は慌てて窘める。
「――動きがうるせぇって」
「あっ、ごめん。つい……。――でも、なんか……分かるかも……。――も、もしかして、花厳さんって、本当にA――」
「そこのおバカコンビ。そういう妄想は休憩中か心の中だけで満喫なさい」
「うわ……っ」
「わぁ! 法雨さっ……!」
姫と桔流は、後ろからぬっと現れた法雨に尾の根元をぐいと引かれ、揃って驚く。
そんな二人の尾の根本をぐっと掴んだまま、法雨はまず、姫を叱った。
「姫? その騒がしい尻尾で酒瓶割ったら、花厳さん来てもずっとカウンターに居させるわよ?」
「ええっ! や、やだぁ~……ごめんなさぁい……」
そして、今一度姫を叱りつけるように一目した法雨は、次に桔流を叱る。
「それと、桔流君。アナタもこの子を焚き付けるような話をするなら、事務所か更衣室にしてあげてちょうだい」
「えっ……あ、は、はい。――すいません……」
そんな法雨のお叱りに対し、桔流も素直に謝った。
その上で、
(話をするのは良いんだな……)
という思いは、胸の内に留める事にした。
そうして、その日も、法雨のお叱りにより“花厳さんの謎”は解明されないまま議論は終幕となったのだが――、そんな賑やかな議論からしばらくした頃。
花厳宛ての料理の運び手を、桔流が担う事になった。
先ほどの議論でよからぬ仮説を立ててしまったため、桔流はそれを静かに懺悔しつつ、花厳のもとに料理を運んだ。
「お待たせ致しました。ラミー梨のソテーです」
桔流が料理を丁寧に置くと、花厳は人当たりの良い笑顔で礼を言った。
「あぁ。ありがとう」
桔流は、それににこやかに返礼する。
「畏れ入ります」
その中、花厳のグラスが程よく減っているのを見やると、桔流は、手際よく追加のオーダーを尋ねた。
「――あ、お飲み物のおかわりはよろしいですか?」
すると、花厳は少し悩んだ後、
「じゃあ、このグラスワインをお願いしようかな」
と、シーズンメニューの一つを丁寧に示し、笑顔で注文を述べた。
「かしこまりました」
それに愛想よく笑み、桔流がオーダーを承ったところで、花厳は、ふと思い出したようにして言った。
「――あぁ、そうだ。――そういえば、桔流君」
そんな花厳は、一度聞いたスタッフの名前を覚えるタイプの客であった。
この店の接客スタイルは、基本的にはスタッフと客ごとの相性に任せられている。
そのため、最近では、花厳がフレンドリーな客である事からも、花厳とスタッフたちは非常にフランクな接し合いをするのが常となっていた。
桔流は、そんな花厳からの声がけにも笑顔で対応する。




