Drop.003『 Shaker〈Ⅰ〉』【2】
「なんかね、なんかね。“花厳さんって何のお仕事してるんですか”って尋いたらね。――“ちょっと恥ずかしいので、秘密です”って、全っ然っ教えてくれなかったの! もぉ~っ! そんなの、逆に気になるじゃんってさ~! 俺もう超むり~!」
「“恥ずかしい”……?」
思いの丈を紡ぎ終えるなりカウンター内で細長い尻尾を振り回し、静かに悶え始めた姫の言葉に、桔流は片眉を上げる。
「――なんか、あの人にそう言われると、地味な仕事で恥ずかしいのか、派手な仕事で恥ずかしいのかすら分かんねぇな……」
「でしょぉ~?」
その中、話しているうちに更に気持ちが昂ったらしい姫は、次いで、
「うう~……」
と、ひとつ唸ると、細長い尾をさらに激しく振り回し、桔流の太い尾をペシペシと叩き始めた。
そんな姫を、桔流は静かに宥める。
「おい、落ち着けって。備品壊したら法雨さんに怒られるぞ」
「だってぇ~……」
姫がここまで花厳の事を気にかけてしまうのは、無論、花厳の顔の良さも一因であるが、それだけに留まらないところが最大の原因である。
花厳は、その顔の良さに加え、人当たりや体格も良い上、高身長という条件まで取り揃えていたのだ。
そのように、好条件を取り揃えすぎているがゆえ――、花厳がすっかりとこの店の常連客になってからは、バーのスタッフたちからも大人気の常連客となっていた。
「後さ、後さ……。――桔流的に、花厳さんって、“どれ”だと思う?」
「ん~……」
そんな花厳が人気を博すバー――〈CandyRain〉だが、この店のスタッフは全員が男である。
よって、気持ちの昂りを隠し切れず、先ほどから細長い尾を自身の脚や桔流に叩きつけながら悶えているこの姫も、外見や面立ち、振る舞いこそ可愛らしいが、生物学的には男性である。
そして、そんな姫の言った“どれ”というのは、花厳の恋愛対象が、異性か、同性か、あるいは両方の“どれであるか”という事だ。
「――それも、見極め難易度高い……」
「やっぱりぃ!? そうだよねぇ~」
もちろん、異性のみが恋愛対象であれば、姫たちが花厳と恋をする事は難しいだろう。
だが、もし、同性とも恋愛が可能な場合、姫たちと恋愛関係になる事も可能という事になる。
そのような事から、ルックス、内面共に申し分のない恋人と幸せになれる可能性の有無をハッキリさせたいがため、姫を筆頭に、桔流と法雨を除くバーのスタッフたちは日々、“花厳さんはどれなのか問題”――について熱い議論を重ねているのだった。
「――もう~。花厳さんって気になる事だらけで、心臓と脳みそどっかいっちゃいそう~……」
「どんだけ気になってんだよ……」
そんな中、日頃から、――“どれ”であろうが関係ない、と議論に加わってこなかった桔流だったが、これまでの流れを経たせいか、ふと、とある仮説に思い至り、呟くようにして言った。
「――あ……、もしかして……」
「な、何!?」
その一言に食いついた姫は、縋りつくようにして桔流の言葉を促す。
桔流は、小声で続ける。




