26話:悪役令嬢(リリア):呼び方について
私とリエルが結ばれてから数日後の昼下がり。
私とリエルとウルスの三人でお出かけ……もとい、恋人としてリエルとデートをしていた。
そのデート中に公園のベンチで休憩をしていた時、ふと疑問に思っていたことが頭に浮かんだ。
恋人になってからもリエルは私を「リリア様」と呼び続けている。学園を卒業をしたタイミングで結婚する予定なので、婚約者でもあるというのに何故なのか。
「そういえば、リエル。私との関係が変わった後も、どうして私を様付けで呼び続けるのかしら?」
リエルの表情が戸惑いを見せた。
私の問いかけが予想外だったのか、発言に悩んでる様子。しかし、リエルは意を決したように、真剣な顔で答え始めた。
「婚約者になっても、私にとってリリア様は尊敬できて、綺麗で、憧れで……本当に素敵な方だからです。だから、私は心から『リリア様』と呼びたいんです」
リエルの真心が伝わってきて、私は心が温かくなるのを感じた。
でも、リエルはまだ何か言いたげだった。静かに待ってみると予想していなかった言葉が続いた。
「それに……『リリア様』と呼ぶ方が、キスやえっちする時に興奮します!」
予想外の回答をされて、座った状態からずっこけた。
座り直しながらもリエルの青い瞳を見ると、いっそ清々しいまでに一点の曇りすら無く透き通っていた。まごうことなき本心だと分かる。
どう答えるか迷い、天を仰いだ。リエルの瞳と同じ色の空が晴れ晴れと広がっている。眺めたところで、天は私に言葉を授けてくれない。
視線を戻して、どうにか一言だけ吐き出した。
「……そう」
他にどう言えばいいのか。
リエルの言い分も、分かるような分からないような感覚だが否定する気は起きない。
リエルの気持ちは噓偽りなく真摯で、私だけに向いている愛情も満ちている。その点を考慮すると悪い気はしないし、呼び方は好きに呼ばせておきたくなる。
理解し、受け入れるのも恋人として大事なことだ。
「ごめんなさい、リリア様! 変なことを言ってしまって……」
リエルが恥ずかしそうに謝る姿を見て、私は優しく微笑み、リエルの手を握った。
「いいのよ。あなたの気持ちはちゃんと伝わったわ。ただ、ちょっと驚いただけ。呼び方も、リエルの好きなようにしていいわ」
私の言葉に、リエルは安心して息をついた。
握った手の温もりを感じながら、私たちは静かな時間を……過ごせなかった。
横で黙って、会話を聞いていたウルスが我慢できずに笑い出したからだ。
私も釣られてクスクスとつい笑ってしまう。
「もぉー! 笑いすぎですよ!」
笑い終えた後、親指を動かし、繋いだ手を擦りながら聞いてみる。
「ねぇリエル……今夜も私の名前を呼んでくれる?」
私の意図を察して、リエルは頬を赤く染めて小さく頷いた。
「いっぱい呼びますぅ……」
今日の夜は長そうね。




