20話:悪役令嬢(リリア):原作と現状の考察
リエルが部屋にいないと、静寂がまるで私を圧倒するようだった。部屋の中はいつも通りで何も変わっていないのに、リエルの存在が不在であることが不自然に感じて落ち着かない。リエルとの生活が私の一部になっていた証だ。
リエルの場所を確認するために、懐中時計のような形の魔道具を取り出す。誰でも扱える魔石で動くタイプではなく、使用者の魔力を使用する高位の魔道具。
この魔道具は対になっている魔道具を追跡できる。対象は、リエルと出会った日に渡した銀で出来た髪飾り形の魔道具。
「リエルは王都から離れたわけじゃないようね」
魔道具で大まかな位置は判明した。肝心のいなくなった理由の手がかりはリエルの日記にあるはず。
「あとで謝らないと……」
とはいえ、人の日記を盗み見るのは言うまでもなく最低の行為。謝罪は決定事項として、リエルの日記をめくった。
最新ページには『リリア様と一緒にいたい』とだけ書かれていた。
「私と……?」
遡って日記を初めから読み進めていく。日記には、私との日々や私への想いが綴られていた。
読み違いかと思って読み直したが、友人ではなく一人の女性として私が好きとハッキリ記されている。
「私が、好きだって……」
あまりの衝撃に頭の中がぐるぐると回り、目の前の文字がぼやけて見えた。
乙女ゲーム主人公が同性の私を好きになるはずがないと決めつけていたから気付かなかった。彼女の中で私はただの友人だと思っていた。けれど日記の中の言葉が、それをすべて覆していた。
リエルは私を女性として愛している。書かれていたのは、他でもないリエル自身の心の中の真実。リエルが私に向けた想いが、こんなにも真剣だったなんて知らなかった。
「両想いだったのね」
胸の奥で何かがふわりと広がるような感覚がした。同時に、喜びで顔が熱くなる。
それはそれとして──。
「私で自慰したことまで書かなくていいでしょ……」
本当に何を書いているんだか。驚きと呆れと嬉しさが入り混じって脱力する。
まぁ一旦、諸々まとめて置いておこう。日記を見ている目的を果たさねば。
日記のページをめくっていき、直近の記録を読む。原作同様にリエルはターマインからプロポーズされているが、実態は私への想いを利用した取引になっている。それに、目的が光の魔力と言っている。
ここが原作との大きな違いになるが、私はターマインとまともに交流していないし、私の行動や言動でターマインの性格や目的が変わったとは考えにくい。
原作知識と、この世界で得た情報で考察してみる。
「原作でもリエルの光属性の魔力が本当の目的だった?」
ターマインは学園の様子を把握していたらしい。ならば、原作ではターマインルートに繋がる孤独のリエルが惹かれるような言葉を選んで誘惑したと考えると辻褄は合う。
「他攻略キャラクターのルートではターマインはエピローグにしか出ていない……。ターマインの目的を知った上で思い返せば、エピローグの行動はリエルを奪うことに繋がっているよう見えてくる」
アレンのエピローグでは、古代の花が咲く花畑の場所をターマインが教える。
第一王子のアレンは秘匿部隊『影身』を使えるが、花畑には連れて行かないだろう。仮に護衛として連れて行ったとしても、ターマインと配下が罠を仕掛けた上で不意をついたならば全滅は免れない。襲撃のための呼び出しなら、花畑の話は噓ね。
ヴェインのエピローグでは、黄金が眠る島の場所を教えて船も用意する。
ヴェインは冒険家なのもあって、攻略キャラクター内では一番の実力者。強敵を確実に始末するために、わざわざ船を用意してまで逃げ場のない海上に連れ出した。火属性の魔法を使うヴェインへの対策として、周りが海の船上という環境設定も合っている。
マキウスのエピローグでは、隣国の大劇場のチケットをマキウスとリエルの二人に渡す。
生徒会長のマキウスは滅多に学園の外に出ないし、他の生徒会メンバーといる時間も長い。劇場チケットはリエルとマキウスを王都の外に連れ出す口実であり、余計な邪魔が入らない隣国への道中でマキウスを始末できる。
どのルートでもターマインがリエルを手に入れるなら……。
原作『マジカル☆アカデミー Gold Palm』の意味は……。
『Gold Palm(リエルは手のひらの上)』
もしも、合っているのなら原作スタッフは趣味か性格が悪い。まぁ、そこの真相は知りようがないから考えても仕方ないとして。
「リエルは間違いなくターマインの屋敷にいる」
そもそも、ターマインが光属性の魔力を求める理由を推測してみる。
日記で気になるのは、リエルがターマインに触れられた時の金属製の感触と視界の歪みについて。
「私にも覚えがある」
お母様をエリクサーで治したあとに開かれた社交界の時だ。ターマインが何故か私に挨拶をしてきて、挨拶後は私とすれ違うように去った。その時、手に硬くて冷たい感触があった瞬間に視界が歪んだ。
よろめきながらも、どうにか振り返った時には彼の姿は他の参加者に紛れて消えていた。
心の奥底からグツグツとした何かが湧き上がる気分だったが、とりあえず隠し持っていたエリクサーを飲んだら一瞬でスッキリしたから忘れていた。
「あの時の感覚が欲望を滾らせるものなら、ターマインは魔の遺物を持っている。おそらく、光属性の魔力を求めている理由は魔の遺物にある。その詳細は知らないけど……」
原作で魔の遺物は最低限度の説明しかなく、登場はマキウスルートの最後のみ。
前世の記憶を取り戻した後、魔の遺物についても調べてみたが大した情報が無かった。
分からない事だらけの存在だ。
「結局、なにもかも確証がないわね」
エピローグの件も含めて、全ては考察と推測でしかない。
しかし……。
「リエルを連れて行ったのは確実。女性として愛するためではなく、魔力のためだけに」
光属性の魔力を求めた理由がどうあれ、ろくでもない事態に繋がっているに違いない。
リエルが幸せになれないなら……ハッピーエンドがないのなら、みすみすターマインに譲る気は失せた。
「よくも奪ったな……私からリエルを……!」
奪い返してやる。
執着心に従って動かない理由はない。
破滅フラグの可能性なんか知ったことか。
鍛え上げたステータスで全て粉砕してくれる。
・ターマインの名前元
mastermind
・ネクストブレン
『マジカル☆アカデミー Gold Palm』の開発&販売元のゲーム会社。
略称はネクブレ。
同人サークル上がりのゲーム会社で、社長が破滅的な展開や要素が好き。
趣味や性格というより、性癖が悪い。
販売ゲームでは、主人公かヒロインが死ぬエンディングを入れたりする。
ゲーム内では悲劇が無い場合は、発売後のインタビューで「あのあと死ぬんですよ(笑)」とか言い出す。もしくは後から出す設定資料集で、エンド後に悲劇が起きる設定を明かす場合もある。
他所がやらない事なのでネクブレしか目立つ供給が無いとして需要を求めてついた固定ファンがいるのと、そういう会社だと知らずに買う層(リリア様の前世とか)がいるのでちゃんと黒字を出している。




