17話:ヒロイン(リエル):現実と嫉妬
リリア様は私とよく一緒にいてくれる。二人きりや、ウルスさんを含めて三人一緒が多い。私にとってはとても貴重で、心から嬉しい時間だ。でも、そうじゃない時もある。今がその「そうじゃない時」だ。
教室から部屋に戻る途中、リリア様が女子生徒に声をかけられた。リリア様と彼女は、社交界や貴族間の繋がりや統治とかについて話している。私には分からない、別の世界の話だ。そんな話題に、私は入ることもできない。言葉のひとつひとつが、私を外側に押しやるような気がして、胸の奥に鈍い痛みが広がった。
彼女の視線が、私を邪魔な存在だと言っている。私は平民でリリア様とは身分が違う。リリア様がどれだけ私に優しくしてくれても、彼女のような周囲の視線や現実がその差を痛感させる。
目の前の光景の話だけじゃない。リリア様に近づく貴族たちを見る度に、嫉妬心が芽生える。彼女たちがリリア様と同じ世界に属しているのが羨ましい。彼女たちは学園を卒業しても、同じ世界にいるリリア様と話す機会はいくらでもある。
リリア様からハッキリと学園から離れたら会わないと言われた私と違うのが妬ましくて、心の写し鏡がヒビ割れていく。
「私は先に戻りますね」
現実を見せつけられるのがツラくて、場を離れた。重くなった足を動かしていると、誰かの肩にぶつかってしまった。
「ごめんなさ、痛ッ!?」
壁に身体を押し付けられて、背中に軽い痛みが生じる。相手は見覚えがない女子生徒だった。
「あんたさ、いつまでリリア様にすがりついているの? 平民がまとわりついているとリリア様にも迷惑がかかるってわからない?」
「迷惑だなんて……」
彼女の言葉に、嫌な汗が流れる。声が震えて、まともに言葉を返すことすらできなかった。
「身の程知らずの恥さらし」
吐き捨てるように言い放ち、私を無視して歩き去る。その背中が遠くなると、私は自然と奥歯を噛みしめていた。悔しさと、無力感がこみ上げてきて、涙がこぼれそうになる。
「リリア様……」
私の口から、かすかな声で名前が漏れる。どこまでも切なくて苦しい。私が平民であること、リリア様が貴族であること、この二つの違いが、私とリリア様との間に深い溝を作っている。その溝を埋める術を私は持っていない。
頭の中で、私に取引を持ちかけた彼の言葉がリフレインする。
『このまま平民としてリリアと残り約二年半を過ごして関係の終わりを迎えるか、ボクに手を貸す代わりにリリアと長い付き合いができる立場になるか』
私は、リリア様と過ごす時間を失いたくない。リリア様との繋がりが、私にとっては唯一無二の宝物だから。
「一緒にいられる時間を……」
その想いが、胸に深く刻まれていく。




