16話:悪役令嬢(リリア):第三王子の登場
ターマインが学園に来る日がついに訪れた。
生徒会長のマキウスが数日前に現れて、リエルではなく私を生徒会に誘うという想定外は起きた。しかし、普通に断って終わったので語ることもなくフラグを処理できた。
そんな想定外のイベントも起きたりしたが、他のキャラのルートに踏み入ることなく今日という日を迎えられた。
昼休み、中庭で昼食を取っていると目的の人物が現れた。
「やぁ君たち、楽しそうだねぇ」
第三王子のターマインだ。瞳と髪の色が碧色で、髪型は……簡潔に説明すると肩まで伸びたワカメ。
「ごきげんよう、ターマイン様」
「リリアの顔を見るのは久しぶりだなぁ。まともに話した覚えなんてないけどさ」
「ターマイン様は社交界にあまり顔を出さないですものね」
「第三王子ならそういう場に居ても居なくても同じだからねぇ。それにね、ボクは忙しいんだ」
「学園に通っていないのも似たような理由ですか」
「どうだろうねぇ。そんなことより、ボクは彼女に用があってここまで来たんだよ」
碧色の目がリエルに向けられる。彼の雰囲気にリエルはたじろいだ。
「わ、わたしですか?」
「そうそう。ちょーっとだけ二人きりで話したいんだ」
不安そうに青い瞳が私を見てくる。そんな目で見られると期待に応えて彼を排除したくなるからやめて欲しい。
「……待っているから、行きなさい」
渋々といった感じでリエルは彼と人気のない場所へと向かっていった。
そこでプロポーズされるはずだ。
原作では、仲が良い攻略キャラがいない孤独なリエルに甘い言葉をささやいてプロポーズしてくる。リエルは突然の話だったので考えさせて欲しいと返事を保留。その後、共有ルートの最終イベントの舞踏会が発生する。
ターマインルートでは当然パートナーがいない。しかし、生徒は舞踏会に強制参加なのでどうにか用意した安価で質素なドレスで会場に行く。
リエルは他の生徒からバカにされたり飲み物をドレスにかけられたりし、壁際でキラキラとした他の生徒たちを眺めて自分との差に泣いてしまう。
後日、再び現れたターマインに妻になると返事をして学園を去り、エンディングを迎える。
イベントの流れを振り返っていると、リエルが戻ってきた。
「話は終わったのね」
「はい……」
「正直に言うと、内容が気になるけど、二人きりで話したかったことだろうから自重するわ」
まぁ、聞いたところできっと原作通りだ。私がいるから孤独ではないが、異性の良い相手がいないリエルは揺らいでいるに違いない。
「あの……いきなりこんなことを聞くのもなんですが、学園を離れた後の私たちはどうなると思いますか?」
急にこんなことを聞いてくる辺り、原作通りにプロポーズをされたようね。
リエルが聞いているのは、彼の嫁になった後の話だ。
「住む世界が違うから、お互いに会うことはないでしょう」
原作テキストで私の生存に言及していた際に、学園の生徒たちと二度と顔を合わせることがなかったと明言されていた。詳細はわからないが、彼の妻としての仕事では学園の人間と関わらなかったのだろう。
リエルが彼の妻となった後は、私が干渉できないから原作と同じ道を辿るはず。つまり、私とリエルの歩む先は重なることはなく、二度と会えない。
「……ですよね」
驚きもなく、私の答えに納得している反応。やはり、リエルは何かしらの説明を受けている。
このまま流れに沿えば全てが終わり、私の破滅フラグが完全に折れる。
……面白くない。
胸の内からムカムカする。
なんだか不快感が湧いてくる。
ターマインとの結婚を邪魔したくなる。
攻略キャラクターとのハッピーエンドだというのに。
私が前世の知識を思い出した八年前からの目標だったのに。
破滅フラグを完全に回避するために必要だと考えていたのに。
行き場がなく、言葉にできない感情が顔に出ないように、拳を握る。
だけど、どうしても胸の内に起きる暴風雨が収まらない。
いつまでも、胸をかき乱され続けた。
最終章って感じです。最後までお付き合いくださいね。
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