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【完結:百合】フラグ折り悪役令嬢〜乙女ゲー主人公の恋愛フラグを折ったら転生悪役令嬢の私と主人公で百合フラグが立った件〜  作者: シャリ


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15話:ヒロイン(リエル):想いで描く絵

 美術館にリリア様と一緒に行った日の夜、リリア様が静かに眠りについた後、そっとベッドを抜け出す。音を立てないように袋から画用紙と鉛筆を取り出した。

 薄明かりの中、ベッド近くの小さなテーブルに向かう。


 画用紙を広げると美術館での出来事が頭に浮かび、私がどうにかしたいと真剣な思いでその白い一面を見つめた。画用紙に描く対象はもちろん、リリア様だ。私の好きという想いを乗せて、私の好きな人を描いて、私の好きな人に思いっきりぶつける。

 でも、絵を描けなくなったリリア様の心を動かすには生半可な絵じゃきっとムリ。まずは練習からだ。


「私、頑張るんだ……」


 小声でつぶやき、手に鉛筆を握りしめて描き出した。



 ──現状確認、絵がヘタ!


 ぐちゃぐちゃとした絵にしかなってない。絵の具が要らない鉛筆でのモノクロイラストでもこんなに難しかったなんて……。

 だからといって諦めない。勉強や運動や魔力鍛錬とかと一緒で、これから上達すればいい。自分で言うのもなんだけど、私は努力をすればするほどに安定して伸びるタイプだ。特に、学園に入ってからはそう感じる。まぁ入学後からはリリア様が丁寧に教えてくれたりサポートしてくれているからな気もするけど。


 とにかく、リリア様を観察して、いっぱい描いて、美術の教本から学びを得て上達していこう。

 まずは観察というわけでリリア様の寝姿をしっかり見る。私が描く姿は上半身部分になるから、その描く範囲を意識する。具体的にはおっぱいから上を見る。

 これは画力と表現力の向上のためで下心は……ありますね。ハイ。

 ありがたく感じるほどに大きくてかぶりつきたくなる肉付きの良いおっぱいをえっちな目で見ない方が逆に失礼だったりしない? しないか。




 この日から夜な夜な画力の向上を行い続けて、どうにか形になってきた。更に月日を費やせば技量はもっと上がるかもしれないけど、それだと遅い気がしてならない。

 今夜で最高の一枚を仕上げてみせる。


 絵に命を吹き込むには、描く相手のイメージを理解する必要があると教本には書かれていた。

 リリア様のイメージかぁ……。


 初めて会って一緒に過ごしたばかりの頃は、シャンデリアのような人だと感じた。大きな存在で、キラキラと光り輝いて、力強くて、揺るぎない。私が隣にいるのが申し訳なく思ったこともある。

 共同生活を続けて、弱い部分も知った今のイメージは……寒い日に灯したロウソクような人だ。静かな明るさがあり、寄り添ってくれるようなほのかな温かさがあって、ふとした瞬間にスッと火が消えてしまいそう。だから、近くにいて手で風除けを作っておきたくなるような存在。そんなリリア様を描きたい。心を動かしたい。


「リリア様……」


 寝ているリリア様を盗み見する。好きな人を見ていると、胸の中がぽかぽかして幸せな気持ちになる。


「絶対に、素敵な絵にします」


 覚悟を言葉にして筆を入れると、感情が流れ出すように思い描くリリア様の姿が少しずつ浮かび上がってくる。描きながら、リリア様の特徴を思い出す。

 見つめ合いたくなる赤い瞳、少し微笑んだ時の口元、美しく伸びる銀色の髪、大きくて柔らかな胸。それぞれのディテールを思い出しながら、何度も鉛筆を走らせた。

 自分の手が、リリア様の心に届く作品を作り出すために動いている。


「リリア様が喜んでくれる絵を描くんだから……」


 好きという気持ち、大事に思う気持ち、感謝の気持ち、なにもかもを練り込み、刷り込むように描いていって……作品の完成を迎えた。


 息を呑むような思いで、画用紙をじっくりと見つめる。そこには、確かにリリア様の微笑みが映し出されていた。

 リリア様の優しさ、温かさ、そして共に過ごした幸せな日々のすべてが、一つの絵の中に込められている。


「私、頑張ったよ」


 自分に言い聞かせるようにつぶやいて、満足感に浸った。

 明日、自信をもってリリア様に見せよう。

 片付けた後、リリア様の隣で眠りにつく。明日が待ち遠しくて仕方がなかった。




 今日はリリア様に私が描いた絵を見せる日。

 だというのに、踏ん切りがつかないまま時間が経っている。平日だから授業はあったけど、もう終わって部屋でおやつタイムを迎えてリリア様と過ごしている。

 絵を見せたい気持ちとは別に、もっと良く描けたんじゃないか本当にあの出来で見せていいのかとか不安がある。でも、いつまでも悩んでいたら前に進めない。私は踏み込むって決めたんだから。


「あの……リリア様に見せたいものがあります!」

「見せたいもの?」


 テーブルにリリア様を描いた画用紙を広げる。リリア様は静かにその絵を見つめ、目を細める。その目が驚きに満ちていく。


「これは……私? でも、どうして……」

「リリア様は絵を描けなくなった理由で、描く時の気持ちと描きたいものが分からなくなったと言いましたよね。それらを少しでも思い出せるように、私が一番に想っている……友達を私の気持ちを乗せて描きました。リリア様のために筆を取りました!」

「私のための絵」


 リリア様は確かめるようにつぶやいてから絵を黙って眺め……やがて感想を口にした。


「……線に歪みがあるし、影を使い切れていない。端的に言えば、筆使いが悪い」

「うぐっ!」


 開幕、ダメ出しを受けた。筆を扱う技量に不足があるのは自覚しているだけに耳が痛い。


「上手くはない絵」

「ですよねー……」


 ハッキリとした低評価を受けて心がぐんにゃりする。もっと練習に日数をかけてからにするべきだったかもと考え出していたら、リリア様はさっきまでとは違う柔らかい口調で続ける。


「でもね、私が好きな絵よ」


 その言葉に心の灯りをともされた。


「美術館にあったどんな名画よりも、ずっと、私の心を掴んで離さない。私にとって世界で一番、素敵な絵」


 リリア様の目には、確かに私の描いた絵が映っていた。リリア様が涙を流しながら、こちらに微笑みかける。


「ありがとう、リエル……こんなにも私のことを想ってくれて、嬉しい。本当に、ありがとう」


 技術的な未熟さはあったけれど、私が込めた気持ちを感じ取ってくれた。こんなにも喜んでもらえて嬉しい。毎晩、リリア様のために頑張ったかいがある。

 なんて感慨深い気分になっていると、リリア様が立ち上がって私を抱きしめた。しかも、私の顔が胸に押し付けられた。


 ふわふわなのにみっちりとした大きなおっぱいに挟まれている。肌触りの良い制服なのもあって幸福感がすごい。ここが天国かもしれない。いいや、間違いなく天国。今日からここに住む。


 リリア様が更にギュッと抱きしめることで、おっぱいのムニュムニュとした感触を顔いっぱいに受ける。


 あああーううー、あぁっ……そんなにぎゅむぎゅむされたら、あの、きもちよくて、あっ、すごい、おっぱい……最近の夜は絵の練習ばかりで発散してないのもあって……あうっうっ…。いいにおいもする、ふぅぅ、おおお……ぁー。



 感想。

 おっぱいに顔面を包み込まれながら髪を撫でられるのメチャクチャ気持ちよかったです。



 長くもあり、短くもあった抱きしめ状態が解除された。身体はまだ熱い。満足を通り越してもう何もわからない。


「画用紙はまだある? 今なら描けそうな気がするから一枚使わせて」


 あっ、ぱい。じゃなくて、真面目に返事する。


「あっ、はい。多めに買っていたので何枚でもいいですよ」


 テーブルに画用紙とデッサン用の鉛筆を置く。


「なにを描くんですか?」

「今の私が一番描きたい相手……リエルよ」


 リリア様に私を描いてもらえる! ワクワクで心がいっぱいになる。リリア様の目に映る私が、どんなふうに描かれるのだろう。

 見ながら描きやすいようにリリア様の対面に座ろうとしたら腕を掴まれた。


「私の隣に座って。その方が上手く描けると思うから」

「……はいっ!」


 隣に位置取りして、じっとする。リリア様は何か考えている様子で、まだ手を動かさない。しばらく待つと、手に持った鉛筆で画用紙に線を描き出した。

 リリア様の熱が込められた絵が出来上がっていくのを黙って見守りながら、私は一層、リリア様との関係を大切にしたくなった。




 時間が経って夕方になった頃、リリア様の手が止まった。


「完成ね」


 私に向かってリリア様が微笑む。いつもの静かな微笑みなようで少し違う。いつもよりも生き生きとした雰囲気がある。


「気に入って貰えると嬉しいけど……」


 私が描かれた絵を見ていると、口元が緩むのが自分でも分かる。言葉にできない嬉しさが際限なく溢れてくる。


「上手く言葉にできませんが私よりも、リリア様が描いた私の方が素敵なくらいに良い絵だと感じます」

「リエルは魅力的なんだから、そんな風に言わないの」


 リリア様から人差し指で鼻先をくすぐられた。イタズラっぽい表情もズルい。ときめいてしまう。心までもくすぐられている。


「あうぅ……あっ、ありがとうございます。すっごく嬉しいです」


 この絵は私にとってかけがえのない宝物だ。どんな名画とも比べることができない、私だけの特別な作品。


「お礼を言うのは私の方よ。私の心を救ってくれてありがとう」


 しっとりとした視線が私を射抜く。ただ黙って見つめ合う。


 他のものは視界に入らない。

 私たちの息遣い以外の音は聞こえない。

 まるで、この世界で二人きりになったみたい。


 私の腰にリリア様が腕を回して、私を引き寄せた。顔が近くなり、赤い瞳に魅入られて息が漏れる。


「……ぁ……」


 なにかを期待してしまう。この先を、起こりえない展開を考えてしまう。もしかしたらと鼓動が加速する。



 突然、鐘の音が二人だけの静かな世界を壊した。夕刻を告げる学園の鐘の音だった。

 リリア様が私から腕を離して、ピッタリと合っていた視線をあっさりと外した。胸の内がキュッとしてツラい。

 勝手に期待して、勝手に振られた気分になってしまった。私ってバカ。


「次の休日は、私たちの絵を飾る額縁を選ばないとね」

「はい、飾る場所も一緒に考えましょう」


 思い馳せるように、窓越しの夕日を眺めた。






 パンツ履き替えたい……。

練習と学びを積めば、短期間で画力向上できる主人公スペック。原作主人公&ヒロインって凄い。

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