11話:専属メイド(ウルス):単なる昔話
アタシはいつの間にか王都の路地裏で産まれていて、母親と一緒に過ごしてた。アタシがまともな自意識を持ってから、そこそこ経つ頃には死んだけどな。死体は放置もなんだし、夜中にどっかの豪邸のでけぇ花壇に勝手に埋めた。どこの家かは覚えてねぇ。
それからは路地裏の世界を一人で生きた。王都は広いし人も店も多いからゴミ漁ってるだけで生きることはできたな。つっても路地裏で生きる人間も多いから生ゴミをめぐって争いもあった。アタシは生きるために強くなったし足も速くなっていた。因みに髪は掴まれないように当時は落ちてたガラスで短く切ってたぜ。
路地裏にいた一部の奴らは心がクソだから、自分たちが楽や得をするためだけに表の人間に手出しをする奴や路地裏の弱者を探して狙う奴もいた。アタシはクソみてぇな場所に産まれて育ったが、心までクソにならないように、ラインを引いて真似しないようにしてた。そんでクソ野郎をあえて狙って盗んだり襲ったりした。
言葉が汚い? クソ以外に言いようがないんだからしょうがねぇだろ。
そんな生活を続けていた、ある日の話だ。クソ二人組が表通りに一人でいた貴族の女の子を捕まえて路地裏に引き込みやがったのを見ちまった。案の定、身代金が目当てだった。アタシは貴族からの謝礼金を目当てに助けることにした。どれだけ金をふんだくるか話している一人の背中に組み付いて首をへし折ってやったさ。もう一人は動揺している間に片付けるつもりだったが……アタシが動く前に倒れやがった。見たら、首から血が出て死んでやがる。
「助かったわ。今の私じゃ二人を一度に相手するのはどうしても危険が伴うから」
「このクソ野郎になにしたんだ?」
「風の魔法で切り裂いたの」
「魔法か。聞いてもわかんねぇわ。まぁいいや、助けた報酬は貰うからな」
「報酬ね……。貴方、家族はいるかしら?」
「この世にいねぇよ」
「そう。ちょうどいいわね。報酬と言ってはなんだけど、私の専属メイドになりなさい。お金と生活は約束するわ」
「マジで言ってんのか。普通に考えて路地裏の人間をメイドにしねぇだろ」
「私は本気よ。貴方は強くて、伸びしろがある」
手を差し出して握手待ちしてきたんだよ。アタシは手を伸ばし……かけて躊躇したんだよな。あんまりにも綺麗な手をしてたもんだから、汚れたアタシの手で握るのはさ。そしたら、お嬢の方からガッと手に取られたわ。この時だな、惚れたのは。恋愛的な意味じゃねぇぞ。
メイドになってやったのは世話するとかじゃなくて、お嬢と一緒に勉強と鍛錬の日々だった。勉強は必要な分だけで、お嬢ほど賢くなったわけじゃねぇけど。
運動力とやらを伸ばす鍛錬の方はとんでもなかったな。手足が千切れても治せるし、死んだ直後なら蘇生もできるエリクサーがあるからってめちゃくちゃなことも二人でやったし。痛かったりもしたが、どんどん明確に強くなるのは面白かった。強くなるために、お嬢と殴り合いするのも楽しかったしな。
お嬢が殴りかかる様子が想像できないって? アタシより強いぞ。よく分からんけど、本とかで知ったらしい技を使ってくるしな。鍛錬方法の元ネタもその辺らしい。あと、アタシは魔力ないから魔法の特訓はやってねぇ。
にしてもメイドの生活ってのは良いよな。綺麗でフカフカのベッドで眠れる。硬くて冷たい地べたとは大違いだ。飯だって、味や食感を楽しめる美味いもんを好きに喰えて好きに作れる。死なないためだけに生ゴミを口に詰め込む頃には戻れねぇよ。
髪だって掴まれる心配ないから伸ばせたし。
……あぁ、そうだよ。髪を腰まで伸ばしたのはお嬢の真似だよ。お嬢には言うなよ、気恥ずかしいから。代わりにお前がお嬢をエロい目で見てること黙っててやるからさ。




