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9話:悪役令嬢(リリア):フラグ折り制服デート

 今日は休日だが、学園にいるのはマズイ。学園内のありとあらゆるところでイベントが詰まっている日だからだ。シロエとくっついたアレン単体に問題なくても、そこから弟のヴェインや分家のマキウスに関係が繋がっていくのでイベントはなるべく踏みたくない。

 ならばどうするか。答えは簡単、学園外にいればイベントのフラグが折れて解決する。というわけでリエルと制服デートを行う。


 朝は寝ぼけ気味のリエルの顔を両手でコネコネし、うにゃうにゃ鳴かせて起こす。リエルに前世があればコネられたパンか、うにゃ鳴き猫かもしれない。

 ウルスと三人で簡単な朝食を取って、制服で外出。

 まずは朝市を見て回る。朝市は朝から賑やかで、新鮮な食材や誰が買うのって思う前衛的な置物が販売されていたり食べ歩きに向いているものがあったりと見ているだけで暇つぶしになる。原作に描写されていない光景が見れるという点でも楽しい。


 市場を見て回った後、リエルと初めて会った噴水広場でベンチに座って休憩。


「リエルと会ってからもう一ヶ月以上は経つわね。早いものね」

「毎日が楽しくて本当に時間の流れが早く感じます。リリア様のお陰です」

「フフッ、私もリエルがいてくれるから日々が明るいわ」


 太陽光を受けて輝く長い金髪を頭から撫でると嬉しそうに目を細める。その気があればずっと撫でまわせそう。

 私が撫でおえて、ポヤポヤした様子から戻ったリエルはハッと何かに気づく。


「ちょっと待っててください!」


 ウルスの元に駆け寄り、何かを受け取りパタパタと戻ってきた。


「リリア様! よかったら召し上がってください!」


 リエルが持ってきたのは、一口サイズのクッキーが入った小さなバスケットと水筒だった。原作で見覚えがあるが確認しておく。


「もしかしてリエルが作ったの?」

「はい! 孤児院にいた頃、よく子供たちのために作っていたクッキーです。普段のお礼がしたくて……昨夜リリア様が寝た後にこっそり作っておいたんです」


 なるほど、だから朝はあんなに寝ぼけていたのね。


「いただくわ」


 クッキーを一つ手に取り、ひと口咀嚼すると、濃厚なバターの風味が口いっぱいに広がった。

 緊張した面持ちで私を見つめているリエルに感想を伝える。


「とっても美味しい」


 リエルは私の感想に安心して顔をほころばせた。


「本当ですか!? よかった!」

「孤児院の子供たちも喜んでくれたでしょうね。心がこもっているもの」

「えへへ……」


 リエルは照れくさそうに頬を赤らめる。

 いくつか食べ進めて、少し気になってくる。


「私ばかり食べてしまっているわね」

「リリア様のためだけに作ったクッキーですから、私のことは気にしないでください」


 そうは言っても、一人で全部食べるのはどうだろう。ベンチに座っている二人の内、一人だけがひたすらクッキーにパクつく絵面は微妙じゃないかな。

 うーん……あぁ、そうだ。

 一つのクッキーを取って、リエルに向けて差し出した。


「リエル、あなたも食べなさい」

「えっ、でも……」

「遠慮しないで、はい、あーん」


 口元にクッキーを持っていくと、リエルは観念して控えめに口を開けた。


「いただきます……あーん」


 リエルは少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうにクッキーを食べる。


「美味しいものは一人よりも二人で食べた方がもっと美味しい。そうでしょう?」

「……はい、すごく美味しいです」


 二人でクッキーを食べながら、周りの賑やかさを楽しむ。噴水の水音や、人々の笑い声が心地よく響く。

 原作ではターマイン以外の攻略キャラはリエルのクッキーを食べるイベントがある。アレンは花畑で、ヴェインは山道で、マキウスは生徒会室で美味しそうにそれぞれ食べていた。私は攻略キャラではないが、リエルのクッキーを実際に味わえたのはプレイヤーとして感慨深い。



 噴水広場で休憩後、少し歩いたところにある飲食店で昼食を取った。代金はリエルの分もまとめて払おうとしたら、リエルに止められた。


「自分の分は自分で払えます!」


 原作にはない話だが、学園内では用意された作業部屋で魔石を作って学園に買取してもらうことができる。買取の取り分はかなり少ないし、現在のリエルの魔力量では週に一度しか作れないが光属性の魔石なので、そこそこの小遣いを持てていたようだ。


 それからは花屋で部屋に飾る花を一緒に選んだり、ウルスに付き合って雑貨屋で食器や調理器具を見たり等をした。購入品は追加料金で配達してもらうことにして、王都を囲む城壁に向かう。

 やがて城下町の賑わいを離れ、私たちは城壁の入り口にたどり着く。着いた頃には夕方になっていた。

 受付の兵士は、規則正しく立っており、目を向けると無表情のまま説明された。


「いらっしゃい。ここに入るには、少々の入場料が必要だ」


 兵士は三人分のお金を受け取り、確認すると頷く。


「上からは素晴らしい景色が見られるぞ」


 入り口から続く長い階段を上り終えて、城壁の上にたどり着くと、目の前に広がるのは美しい景色だった。夕焼けに染まって広がる町の屋根、遠くに見える夕日、オレンジ色の空に映える雲。なんだか、一枚の絵画のようだ。

 リエルが景色を楽しむように両手を広げる。


「わぁ……すごい!」


 二人で並んで城壁の端に寄り、王都を見渡した。眼下では、子供たちが遊んでいる姿や、商人たちが働く様子が見える。まるで、彼らの生活が一つの絵巻物のように広がっていた。

 その時、ウルスが城壁のへりに飛び乗った。


「へぇ、いい眺めじゃんか」

「ちょっ、危ないですよ!」


 ギョッとしたリエルが慌てて声をかけるが、ウルスは手をヒラヒラさせながら、飄々とした態度で答える。


「落ちるほどマヌケじゃねぇって。てーか、この程度の高さなら落ちてもケガしねぇよ」

「この程度……?」


 リエルが身を乗り出して下を覗き出したので、私はリエルを抱き寄せて身体を引かせる。


「そんなに前に出たら危険よ。あとウルスなら大丈夫よ」

「はっ、はい……」


 気を取り直して、景色を見渡す。


「王都ってこうして見ると、呆れるほどに広いものね」

「私たちが知っているところはちょっとだけですね」


 まだ知らない場所に対して、リエルはワクワクしている様に見えた。


「今日みたいに、知らない場所に一緒にお出かけしてみる?」


 私の提案に、リエルは嬉しさいっぱいの笑顔になった。


「ぜひ! リリア様といろんな景色を一緒に見たいです」


 リエルの言葉に微笑んで、視線を再び広がる街並みに向けた。


 景色を楽しんだ後、再び長い階段を下りる。入り口に戻ると、リエルが両手を両膝に置いて肩で息をしていることに気づいた。

 失敗した。リエルの体力……もといステータスがまだ高くないことを考慮できていなかった。タクシー的な存在である町馬車をこまめに使ったりするべきだった。今後は気を付けよう。


 町馬車を捕まえて、料金を払い、学園まで運んでもらう。

 席は私の対面がウルスで、右にはリエルが座る。馬車の中から外を眺めると、飲み屋以外はどこも店じまいをしていた。

 トンと右肩にかすかな感触が伝わった。視線を向けると、リエルが寝落ちして頭を私の肩に預けていた。馬車の揺れと疲れが相まって、睡魔に仕留められたようだ。寝顔はとても穏やかで安心しきっている。その可愛さに口元が緩んでしまう。


「眠り姫の頬にキスでもしねぇのか?」

「私とリエルはそんな関係じゃない」

「んだよ、つまんねぇな〜」


 ここにいるのが私じゃなくて攻略キャラの誰かだったら、それくらいはしているでしょうけどね。



 学園についたのでリエルを起こして馬車から降りる。

 リエルは眠気と疲れで足元がふらついていた。見ていられないので、有無を言わせずに捕まえてお姫様抱っこする。


「ひゃっ! あわわ……」

「フラフラしていて不安になるから、このまま運ぶわ」


 歩き出してすぐにリエルから聞かれる。


「あっ、あの、重くないですか…?」

「天使の羽みたいに軽い」


 私のステータスなら、リエルを抱えても負担は無い。ステータスを伸ばすための鍛錬では大岩を運んだりもしていたからなおさらだ。


「リリア様……みんなに見られてます……」


 どこか申し訳なさそうなリエルを安心させるように微笑んでおく。


「見せつけているのよ」


 実態はどうあれ私がリエルを自分のものにしていると認識させておけば、私がそばにいない時や目を離している間でもリエルに悪意のある手出しや悪口はしにくくなるはず。だから、堂々と見せつけて部屋まで戻った。

 疲れている状態でお風呂は危ないので、明日の朝に二人で入ることにして眠りにつく。

 今日限定の学園内イベントのフラグを折れたし、リエルと制服デートを楽しめたし、完璧ね。

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