8話:ヒロイン(リエル):花園でお茶会
今日は学園の創立記念日。
記念日だから授業がない。一日中、自由な時間。しかも、リリア様から前もって今日は特別なお茶会をするから予定を空けておいて欲しいと頼まれていた。もちろん、絶対に予定を入れませんと秒で返事した。
昼頃、お茶会は花園の中でするということで、リリア様と並んで花園に入った。
「わぁ……」
花園は色とりどりの花々が元気よく咲いていて、違う種類の花が交じり合っているのに調和が取れていた。まるで魔法で造られたような光景で、自然と心が明るくなる。
「花園に来たのは初めてですが、綺麗な場所ですね」
こんな素敵な場所をリリア様と歩けるなんて、最高の気分。
「そうよね。最近、ここで二人目の学友ができたの」
たった今、最悪の気分になった。
「がっ……学友ですか」
脳の辺りがキリキリと悲鳴をあげた。リリア様の学友という唯一無二の立場が脅かされている。
もちろん、私がリリア様を束縛なんてできない。学友を新しく作るのだってリリア様の自由だもんね。でも、これからはリリア様が新しい学友ばかりと時間を取ったらどうしよう。そうじゃなくても、私とリリア様の二人の時間が減るって考えたら悲しくなる。
「どんな方ですか?」
嫌な考え方をすると、私の方が特別だと思える相手だといいな。私は平民な時点で他より劣っているけど、リリア様の初めての学友だし、あとほら……貴重な光属性だし。
「シロエって名前の女子生徒よ。学園長の娘で、花園をたった一人で管理している凄い子なの」
つよい。
かてない。
おわりだね。
頭の中がクラクラしながらも、お茶会をする場所についた。
ウルスさんがテーブルにお菓子や食器を並べる。一つのテーブルに三人分だった。
もしかして……いやいや、きっと今日はウルスさんも同じテーブルでお茶会を──。
「リリア……待ってた……」
違った。ですよね。
なんか黒髪ロングで目が前髪で隠れた女子生徒が日陰から現れた。
「ごきげんよう、シロエ」
それからは、リリア様が主体でそれぞれ顔合わせを行って、四人でのお茶会が始まった。
今日のお菓子は花がモチーフになっていて、どれもウルスさんの腕前を感じられるクオリティだった。
「リリアのメイドって職人だね。花園の雰囲気に合わせたお菓子で花の魅力もあるし」
私は心の中で同意はしつつも、いつもよりも味が落ちているように感じる。これはウルスさんの技術の問題じゃない。シロエさんがいて、私が好きな空間が乱されているからだ。牽制のつもりでシロエさんに目線を送っても、気にされなかった。
微妙な空気のお茶会をしばらく続けていると、遠くから嬉しそうな声というか悲鳴が聞こえてきた。
「なにかあったのでしょうか?」
「みたいね。だけど事件的な騒ぎじゃなさそうね。あとで誰かに聞いてみましょうか」
うーん、少し気になる。まぁ、あとで分かるからいっかぁ。
「君たち、ちょっといいかな」
気にせず紅茶を飲んでいると、知らない男子生徒に声をかけられた。金髪で青い目で雰囲気がキラキラしている。
「ごきげんよう、アレン王子」
この人って王子様!?
慌てて立って挨拶をした。アレン様は最初にリリア様と会話をしだした。
「お、おうじさま……」
国にとって大事な人が目に前にいることに現実感が無くて、頭が白くなる。
すると、アレン様は私に話しかけてきた。
「リエル君とは初めてだったね。どうか肩の力を抜いて、ただの生徒の一人として僕に接して欲しい。身分の違いは抜きに生徒同士の交流を心がけること、という学園の決まり事もあるからね」
「はい! がんばります!」
王子様って凄い。
気品があって魅力的な人間だと思える。リリア様ほどじゃないけど。
顔やスタイルも良い。リリア様ほどじゃないけど。
微笑み方も素敵。リリア様ほどじゃないけど。
やっぱり、リリア様が一番だよね!
とか考えていたら、シロエさんが学園の案内人としてアレン様を連れて私たちから離れていった。
リリア様が椅子に座ったのに合わせて、私も椅子に体重を預けて一息つく。
「私たちはどうしましょうか?」
「お茶会を続けましょう。いつもの三人でね」
リリア様と過ごせる私の大好きないつもの空間に戻ってくれて嬉しい。アレン様がシロエさんを連れていってくれてよかった……なんて、本当は良くない考え方をしちゃう。
だって……私がリリア様のそばにいたいから。
翌日、アレン様の婚約者がシロエさんに決まったことが発表された。
心の中には、二人を素直に祝福する私と、二人が私からリリア様を奪うことがないと喜ぶ私がいた。
リリア様と比較というクソデカハードル。
というわけで、第一王子アレン編が終了です。この作品の一つの区切りです。
ここまで読んでくれた皆さん、ありがとうございます。
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