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成人式

作者: さば缶

惑星〈ファタール〉の1月第2月曜日。

そこでは毎年、地球の「成人式」に似た儀式が盛大に行われる。「成人テレポート式」と呼ばれるそれは、若者たちを一人前と認める伝統的行事だ。

違うのは、儀式の最後に惑星に点在する別次元ポータルを使い、彼らを “大人として相応しい場所” へワープさせる手順が必須になっていること。

そして、その場所というのが毎年ランダムに決まるため、行き先が“超危険地帯”になってしまうこともあるというのだ。


1.嵐の前の静けさ

「次元ポータル、位置調整良好。圧力計の値、正常。ワープ先のランダム抽選…あと5分で開始します」


役所の職員ロボットである〈リディカ〉がアナウンスすると、会場に集まった新成人たちの顔が一斉にこわばる。

カラフルな衣装に身を包んだ若者たちは、ただでさえ緊張のピーク。

それなのに、これから自分のワープ先が極寒の氷河星か、火山帯に囲まれた灼熱地域か、果てまた敵意むき出しのエイリアン帝国か――全くわからないのだ。


空色の振袖風ドレスを着た少女・アストラは、大きく深呼吸して気持ちを落ち着ける。

「大丈夫、私、どこへ行っても生き延びる自信あるし!」

ただ、内心は不安でいっぱいだ。

幼なじみの〈リョウマ〉からは「そのポジティブさ加減こそ、お前の最大の強みだ」と言われているが、どんな恐怖からも“笑い飛ばせる”才能が本当に通用するのだろうか。


隣にいるリョウマは、地球の学生服っぽいパワードスーツでバッチリ決めていた。

「アストラ、万が一危険地帯に飛ばされても……まあ、大丈夫だろ、俺たち二人なら」

「リョウマ、それあんたが危険フラグ立てる時の台詞じゃん!」

「いや、フラグ立ったら潰すタイプだから問題ないって!」

二人して小声でそんなことを言い合い、周囲からクスっと笑いを誘う。


2.突然の緊急事態

すると、職員ロボット・リディカが急にあわただしく駆け寄ってくる。

「大変! 通常のランダム抽選システムにバグが発生しました! いま抽選装置が暴走しはじめています!」


それを聞いた新成人たちは大混乱。

会場後方にある巨大なポータルゲートがガタガタと震え始めたかと思うと、予期せぬタイミングで次々とポータルが発動し始めたのだ。


「え、ちょっとまって!? まだ心の準備が―」

「何で勝手にボクが吸い込まれてるのぉぉぉ!?」

新成人たちが一人ずつゲートに吸い込まれていく。

次元の歪みの中に飲み込まれた若者たちが“どこ”に飛ばされるかは、誰にもわからない。


そして、式場内では混乱だけが広がる。

パニックに陥ったリディカが叫んだ。

「ワープ先の行き先が、全員違うパラレルワールドに分散されそうなんです! データが暴走してる!」

まだポータルに吸い込まれていない者たちも、時間の問題だ。そんな中、アストラとリョウマの頭上に黒い亀裂が走る。

「うわああああ、足元が引っ張られるっ!」

「アストラの手、離すなよ!」

そう言う間もなく、二人は闇の渦へと堕ちていく――


3.波乱のそれぞれの地

3-1.アストラ in “謎の遊園地”

アストラが目を覚ましたのは、薄暗い夕景に包まれた遊園地の中央だった。カラフルなライトが点滅するメリーゴーランドやホラーハウス風の建造物は、まるで生き物のように軋みを上げている。

客の姿など皆無で、代わりに遠くをうろつく半透明の怪生物が不気味なステップを踏んでいた。

振袖風のドレスは砂まみれで裾が裂け、靴のヒールはぐらついていて頼りない。

冷や汗が背筋を伝い、心臓の鼓動が早まる。


「いったい何なの、ここ……!」

アストラは園内の案内サインを見つけるも、謎の文字が蠢くように刻まれているだけ。

すると突然、文字が白く光り、hologram が回転し始めた。

脳内に響く声は「大人にふさわしい試練を提供します」という不可解なメッセージ。次の瞬間、園内に幾重もの機械音声がこだまする。


「恐怖の入り口へようこそ!」


メリーゴーランドの木馬は赤い瞳を光らせて唸り、観覧車のゴンドラがギシギシ音を立てながら揺れ出す。

おまけに巨大なお化けピエロの顔が描かれたジェットコースターが、ガタガタ走りながらこっちへ突っ込んできた。

アストラは悲鳴を上げつつ地面に転げる。

ヒヤリとした拍子にドレスがまた破れ、半泣きで立ち上がった時には、なぜか足元に電磁バットが転がっていた。


「ええい、もう当たって砕けろ!」

ビリビリと放電するバットを握りしめると、今度はメリーゴーランドの木馬数体が一列に並び、カタカタと追いかけてくる。

鼻先からは煙のようなガスが漏れ、何やら攻撃的な異臭まで漂う始末。

怖さで足が震えるが、アストラは泣き言をこらえて大きくスイング。

ガシャーンという衝撃音に続き、馬の頭部が火花を散らして吹っ飛ぶと、ギコギコと軋む残りの木馬たちが一斉に逃げ出した。


ほっと息をつく間もなく、今度はコーヒーカップ頭の生き物が踊りながら接近してくる。

頭がぐるぐる回転し、透明な身体が波打つように揺れつつ増殖しているではないか。

「ちょ、ちょっと増えすぎでしょ!」と突っ込みたくなる数だが、撃退しなければ袋叩きにされそう。

電磁バットを左右に振り回すが、ヤツらは避けながら背後をとってくる。

すると突然、頭部から濃厚な液体が飛び出してきて、アストラの髪にベチャリ。

甘い匂いに思わずむせながら、「なんでコーヒーぶっかけるのよ!」と大慌てで周囲を払いのける。


さらに、軌道を外れたジェットコースターが遠くで轟音を上げ、猛スピードでこちらを狙ってきた。

空中を跳ね回る車両は、狭い遊園地の通路を縫うように突進し、看板や柱をなぎ倒しては無残な金属音を響かせる。

アストラは電磁バットを握りしめたまま必死に逃げ、最後はスライディングしてギリギリで車両をかわす。

転がった先でドレスの裾に再び大きな裂け目が入り、さらにボロボロに。泣きたいほど情けないが、なぜか笑えてきた。


「大人になるって、こういう無茶を切り抜けること……なのかもね!」

震える足を踏みしめながらも前を向く。自信は半分消えかけているけれど、笑う元気だけはまだ残っていた。

ゲームみたいに次々と襲い来るアトラクションを半泣きで撃退しながら、「やるしかないじゃん!」と声を張り上げる。

この超現実的なホラーとギャグが入り混じった戦場を駆け回るうち、彼女は自分の中の本当の強さを見つけつつあった。

恐怖と笑いでぐしゃぐしゃになりながらも、アストラは高々とバットを掲げ次々と撃退していく。


3-2.リョウマ in “古代遺跡の戦場”

リョウマが再び目を開けたとき、焦げつくような太陽の光が砂漠を照らしていた。

周囲には信じられないほど大きな神殿跡がそびえ、無数のトゲトゲしい石像が並ぶ。

まるで古代の巨大生物を祀った聖域のようで、その中心からは轟音が絶えず聞こえてくるのだ。


パワードスーツを確認すると、かろうじて動作するようだが、いつまた火を噴くか分からない危うさがある。

「アストラは無事か?」という思いが頭をよぎり、気を取り直してスーツを起動させた瞬間、砂煙の奥から巨大な昆虫型モンスターが這い出てきた。うねうね動く鋭い触角と、大岩を砕くほどの顎。

データベースいわく「アリジゴク型襲撃種」だが、こいつは想像を超えている。


「おいおい、こんなもん勝てるのか?アストラの言ってた通り、危険フラグ立てちまったか…」と弱音を吐きかけるが、モンスターは迷いなく地面を抉りながら突進してくる。

リョウマは必死にスーツのビーム砲を発射しようとするが、運悪く熱暴走を起こしてしまい、「ちょ、タイミング悪すぎ!」と絶叫。

火花が散ってシステムがダウンする中、仕方なく身ひとつで立ち向かうしかない。


汗が噴き出るほど恐ろしいが、逃げ道はない。

「弱くたって、踏み出すしかないだろ!」と自分を奮い立たせ、間合いを測りつつモンスターの足元に飛び込み、タックルを繰り出す。

その衝撃で甲殻表面がひび割れると、モンスターは甲高い咆哮をあげて暴れ狂い、砂を巻き上げて視界を奪おうとする。


「うわっ、やめろって!」と叫ぶリョウマは、砂嵐の隙間から転がる石槍を見つけ、咄嗟にそれを掴んだ。

形ばかりの槍だと思いきや、意外にも頑丈そうだ。

思い切り突き出すと、モンスターの腹部にグサリと刺さり、白い体液が吹き出す。

アリジゴク型のクリーチャーは痛みにのたうち回り、まるでダンスのように足をばたつかせながら石像を次々破壊していく。

その姿は悲惨なのに、あまりのドタバタぶりに「なんだこれ、ギャグかよ!」とリョウマは思わずツッコみそうになる。


ようやく絶命したかと安心しかけたそのとき、今度は遺跡の奥からガシャガシャと鎧をまとった人型の魔物が数体、列を成して迫ってきた。

しかもどうやら古代の機械兵らしく、腕には錆びたブレードがセットされている。

バチバチと火花を散らしながら「ブォン!」と大上段を振りかぶるのだ。


「ちょ、次から次へと勘弁してくれよ!」と青ざめるリョウマだが、後ろに下がれば墜落しかねない深いクレバス。

逃げ場はない。

パワードスーツを再起動しようと何度もボタンを叩き、ついに閃光と共に動力が戻る。

今度こそビーム砲が使えるか……と思いきや、また小さな爆発音。

「おいおい、ウソだろ!」と悲鳴を上げつつも、リョウマは懲りずに突撃し、ブレードをかろうじて避けながら渾身のチョップを叩き込む。

案の定痛いだけだが、予想外の至近距離攻撃に戸惑ったのか、機械兵の動きが一瞬鈍る。


その隙を逃さず、リョウマは別の石槍を掴んで横薙ぎに一閃。

錆びた機械兵は関節部からガラガラと崩れ、仲間たちもぎこちない動作で逃げ腰に。

思わずリョウマは息をつき、「俺、まだ生きてるよな……?」と呟く。

すると壁面の古代文字が妖しく光り、「真の強さを得るには恐れを超えよ」と響いてくる。

息を整えながら、リョウマは口元に苦笑を浮かべた。

「大人になるってのは、怖いもんに正面から突っ込むことなのかよ……」

砂煙が晴れ、彼は傷だらけのスーツを叩きながら、遠くにいるはずのアストラを思う。

「待ってろよ。アストラ、お前も倒れるなよ…。」


3-3.他の新成人 in “謎の環境”

ある新成人は、星の全域がゼリー状の液体に覆われた惑星に飛ばされて途方に暮れた。

足元がぷるぷると弾むせいでまともに歩けず、逃げようとすると未知の生物が足を引っ張るように絡みついてくる。


その一方で、別の新成人は植物に覆われた巨大図書館で孤立し、棚から生えたツタが自我を持って本を隠すため、必要な情報を探し出すのに苦労したという。

さらに、電磁嵐が絶え間なく吹き荒れる雲海の上に浮かぶ島へ飛ばされた者もいて、追いすがる雷雲を避けながら空飛ぶ魚型マシンとデッドヒートを繰り広げたらしい。


奇妙極まりないのは暗闇のレストランに飛ばされた新成人で、そこでは黒服をまとった幽霊たちが給仕をする代わりに客に不吉なうわさを囁き、不安と戦いながら食事を続けなければならなかったらしい。

また、まるで生きているかのようにうねる万華鏡空間へ飛んでしまった者もおり、出口を見つけようと奥へ進むほど視界が歪んで自分すら見失いかけたと聞く。


こうして聞くだけでも途方もないが、何とか無事に生還した彼らの証言は、成人テレポート式の恐ろしさと多様さを物語っている。


4.そして再会――“大人”になる日

アストラは地獄のような遊園地で、涙と笑いの大立ち回りを続けながら出口を見つける寸前までこぎつけていた。

リョウマは古代遺跡の戦場をなんとか切り抜け、また別の道へ進む。


すると、彼らの足元に再び黒い亀裂が走り、ぐわんと次元が歪み始めた。

今回は自分でくぐるしかない。

――そう、これこそが“成人テレポート式”の本来の試練。

ランダムな場所で若者たちが自分の弱さと向き合い、実際に“自分の力で出口を見つけなければ”元の世界には戻れない。

プログラムはバグで暴走したが、偶然にも本質をむしろ強化する形になっていたようだ。


気が遠くなるような光に包まれた後――


ふと気が付くとアストラは式場のステージの上で倒れ込んでいた。

同じように、リョウマも少し離れた場所でぐったりしている。

周りを見ると、他の新成人たちもそれぞれボロボロの姿ながら、なんとか帰還しているようだ。


係員ロボット・リディカがあわてて近寄ってくる。

「よかった……みなさん、全員帰ってこられたんですね! 通信が復旧したので、いま公式に“成人テレポート式”は完了ということでいいそうです」

周囲の新成人たちは泣き笑いの大騒ぎ。

倒れこむ者、放心状態の者、互いに抱きあって喜ぶ者たち。

まさにドタバタそのものだ。


5.涙と笑いの贈り物

アストラとリョウマはようやく顔を見合わせ、思わず笑ってしまう。

泥だらけでボロボロの姿だが、「無事でよかった!」と抱き合おうとした瞬間、二人とも足元がグラリとよろめいて転倒。

結果的に互いの顔面がごっつんこし、今度は痛くて大笑いが止まらなくなる。


大人になるってこういうことなんだろうか、と思いつつ、二人とも笑いながらも目元が潤んでいた。


「リョウマ、私、正直あの遊園地、すっごく怖かった。でも逃げずに踏ん張ったら……なんか少し、気持ちが変わったよ。いつも強がりばっかで、嘘じゃないけど本当の自分とはちょっと違ってたなって」

「俺もさ……ほんとはビビってたし、何かあるとアストラを助けるって口実で自分の不安を隠してた。でも今は、ちょっと本音で“怖いものは怖い!”って言えるようになった気がする」


二人はお互いの手をしっかりと握りあい、思わずほろりと涙を流す。


するとリディカがマイクを通じて宣言する。

「皆さん、波乱万丈の成人テレポート式、お疲れさまでした! これより、皆さんを正式に“大人”として認定いたします!」


教科書通りの厳粛な式にはほど遠い、めちゃくちゃな出来事だった。

しかし、その“めちゃくちゃ”を乗り越えた者たちには、新たに自信と経験と、そして何より“自分らしく大人になる”ための第一歩が刻まれた。


がらんどうの会場の空に、祝福の花火ならぬホログラムの星屑がきらめく。あちこちで笑いと涙が入り混じり、仲間同士で抱き合う光景が広がる。

まだまだ人生はこれからもドタバタするだろう。だけど――

「……私たち、これから先もずっと、笑いながら成長していこうね」

アストラとリョウマは頷き合い、笑顔で祝福の光を見上げるのだった。


この惑星〈ファタール〉独特の“成人テレポート式”は、彼らにとって永遠に忘れられない思い出となる。

泣きながら笑った、心からの“おめでとう”。

混乱や絶叫にまみれながらも、自分で選んだ一歩を踏み出した瞬間こそが――いま、大人という新たなステージへ通じる扉だったのだから。



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