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9話「その約束は永久に」

「ブ、ブラッド……すまない私のせいで厄介事に……」


 オズウェル達が教室から姿を消すと周りを取り囲んでいた平民や他の貴族達も蜘蛛の子を散らすように去っていき、俺の横からはサツキが心配そうに顔を覗かせていた。


「なに、気にする必要はない。遅かれ早かれ、あの手の者とは対立する定めにあっただろうからな」


 彼女を心配させまいと直ぐ言葉を返す。だが恐らくあの場で問題事が起きなかったとしても何れはサツキを巡り、対峙する運命であったことに変わりはないだろうということは容易に予想できる。


 なんせパウモラという男が言っていたように貴族というのは貴族同士で交流を深める傾向にあるからだ。ならば勇者の証を持ち尚且つ貴族である彼女を他の者が無視しておく道理がないと言える。


「そ、そうか。……いやしかしだ! 私のせいで処刑の有無を決める戦いを行うことになったのだぞ! しかも3対1という劣悪な条件を課せられてだ! ならばこちらも対抗して私がブラッドと共に……」


 サツキは自分のせいで命を賭けた戦いにまで事が発展したことに危機感を募らせているのか、自身も共に戦うと言い出すと思いつめた様子の顔を浮かべながら拳を握り締めていた。


 だがこれは俺の魔王としての性格や生き様が影響しているのかは分からないが、生前の頃は魔王の座を狙う若手の魔族に何度も命を狙われたり、絶えず現れ挑み続ける勇者共と常に命のやり取りをしていたせいで彼女のように感情的になることができない。


 それも相手がまだ殻も破れていない有精卵ならば尚更のことである。


「サツキよ。そう言ってくれるのは有難いが、それでは逆に向こうを調子付かせることになるぞ。想像してみろ。俺とお前が共に決闘の場に姿を現したところをな」


 仮に彼女と共闘することになれば色々とこちら側が不利になるのは確実であるのだ。

 例えばそう……貴族達に啖呵を切って決闘を挑んだが結局怖気づいて、勇者の証を持つ彼女を引き連れて現れた哀れな男という風に周りから言われるだろう。


 そんな状況で貴族達に勝利しても彼女ありきの実力として見られてしまい、そうなるとサツキにこれ以上手を出させない為に周りに実力を見せつけるという、意味を込めた今回の決闘そのものが無駄になってしまう。


「……っ!? そ、そうか。確かにブラッドが私と共に戦うと不利になる……」


 サツキは眉間に皺を寄せて手を顎に当てながら呟くと、考え方は様々だと思われるが俺が不利になることについては気が付いたようである。


「そうだろ。だからお前は何も心配せずに、ただ俺の勝利を確信していろ。それにサツキは俺が負けると思っているのか?」

「お、思っていない……と言えば嘘になるが正直分からない。だが戦闘適正の時に見せた、あの驚異的な力があれば3対1という状況でも……」


 顔を下に俯かせたまま妙に自信がなさそうな声色を出すと、彼女の中では俺の勝敗が五分五分というところになっているのだろう。だがそう思うのも無理はない。


 何故ならこの頃の俺はサツキから剣の扱い方を基礎から学んでいる最中であったからだ。

 恥ずかしながら剣を使用しての戦いは苦手な部類で圧倒的に肉弾戦の方が好みである。

 しかし彼女の神妙な面持ちを見ていると何故か段々と笑みが込み上げてきて、


「くっ、はははっ! そんなに難しく思案しなくともいい。俺はお前が生きている間は決して死なん。絶対にな」


 笑い声を零すと共に視線をしっかりと合わせて死なないという言葉を主張して言い切った。

 ……だがやはりサツキには難しい顔よりも、太陽のように晴れやかな笑顔の方が何倍も美しく似合うだろう。


「当たり前だ! ブラッドには私が勇者として魔王を打ち倒す、その日まで隣に居てもらわないと……その……こ、困るからな!」


 食い気味に反応してくるや否や途中まで声に覇気のようなのものを篭らせていたが、何を考えたのか急にサツキは頬を赤らめると両手をもじもじとさせて視線を泳がせていた。

 

 実は彼女と俺には幼い頃からの約束事があり、それは一緒に魔王を討伐するというものであるのだ。けれど現実というのは酷なもので今や俺という存在自体、サツキが討ち取ろうとしている魔王の一人である。


 ……本当に運命とは尽く俺に反旗を翻してくるが、これも一種の定めなのだろう。


「ああ、そうだったな。その約束だけは今も決して……忘れていないぞ」


 色々と考えてしまい不意に感情が篭もりそうになると敢えて声量を小さくさせて呟いた。

 だがそれを聞いた途端に彼女は人を疑うように目を細めると、


「ん、声が小さくて聞こえなかったぞ。もしかして今の今まで忘れていたのか!」


 と言いながら疑惑に満ち溢れた表情を僅かに近づけて声を荒げていた。


「いや、そんなことはない。それよりも学院見学はしとかなくていいのか? 時間は有限だぞ」


 このままでは疑いの念を抱いたサツキから『本当に約束を忘れてはいないだろうな』的な事を永遠と言われ続けて面倒事になるのは目に見えているが故に早急に話題を逸らした。

 幸いにも学院見学という正当な逃げ道が用意されていて助かった。 


「ぬあっ!? そ、そうだな! 約束の件も確かに大事だが、それと同等に今は学院見学も大事だ! さっそく見に行くぞブラッド!」


 言われて気が付いたのかサツキは壁際に設置されている時計へと顔を向けて、時刻を確認するような素振りを見せると急いで教室を出ようと扉の前へと駆けていた。


「仰せのままに、サツキお嬢様」


 そんな彼女の姿を見ながら少しだけ冗談を交えようと、執事のような口調と共にその場で一礼を披露した。


「おい! その言い方と仕草はやめてくれ! シンプルに気持ち悪いぞ!」


 するとサツキはお嬢様と呼ばれることが嫌らしく目付きを尖らせながら怒声を吐いていた。


「……ふっ」


 昔から変わることのない彼女を見ながら気付かれないように鼻で笑うと、俺は彼女と一緒に学院内を見学する為に教室を出るべく歩みを進めるのであった。

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