娘は何も知らぬままでいい
アリスティドに、イモムシになったあの娘の顛末を聞かせたらあんまりにもあんまりな反応が返ってきた。
自分でやっておいて『わざわざ僕に教えてくれなくていいのに』『まさかイモムシが蝶に戻れるなんて思わないでしょ。びっくりだよ』ときた。
本当に、敵に回したら最悪なタイプだと思う。
こいつの子孫で心底良かった。
「だが、あいつのおかげでアニエスは無事にここまで成長出来たからな」
ワインを飲みつつひとりごちる。
本当に、アリスティドには呆れることも多いが感謝している部分も多い。
アニエスに関することなら感謝しかない。
まあ、たまにやりすぎな時はあるが。
目の前でアニエスに何かされた時には特に尋常じゃない。
「まあでも、上手くアニエスに知られないよう処理しているから別にいいが」
いつだってアリスティドの立ち回りはうまい。
さすがは始祖様だと思わずため息が出るほど手際もいい。
これは歴代の皇帝たちも頭が上がらなかったのが頷ける。
「…アニエスは、そういう裏事情は知らなくていい」
俺やアリスティドが、アニエスに危害を加えた…あるいは危害を加えようとした奴らを処分しているなんて。
アニエスが知ったら喜ぶどころかショックを受けるに決まっている。
あの子は優しい子だから。
だから、あの子はそういう裏事情は知らなくていい。
「…だが、今回の話は少し面倒だな」
今までアニエスの害になるものは全て退け、アニエスが快適に過ごせるように気遣ってきたが。
「教皇からの依頼となると…難しいな」
別に断ろうと思えば断れるが、断るほどの理由もない。
「最近見つかった聖女とやらのお話係に、アニエスを是非にか…」
一応、方々にコネを作っておくのもアニエスのため。
とはいえ、もしその聖女とやらが害悪になったら…最悪教会と全面戦争しなければならなくなる。
そこまで拗れなくても、聖女とやらにお灸を据えることにはなるだろう。
「…はぁ。でもまあ、アニエスの性格を考えれば紹介してやったほうがいいか」
なんと言っても、聖女とやらは見目麗しいと評判だ。
そういう意味ではアニエスは喜ぶはず。
相手の性格が最悪でなければの話だが。
「…頼むから、どうか聖女が変な女じゃありませんように」
そう祈りつつ、今度アニエスに教皇からの依頼の話をすることにした。
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