イモムシは蝶になったらしい
アガット侯爵の娘は、いつのまにかイモムシから人間に戻っていたらしい。
一年も良く耐えたものだと思う。
ただ…案の定最初は精神を病み歩くことも叶わないどころか、意思疎通すら難しい状態だったらしい。
それでもこの数年で、意思疎通や日常生活に問題はなくなったと聞いた。
ただ、僕の存在がトラウマになり表には出てこなくなったらしいが。
「わざわざ僕に教えてくれなくていいのに」
「アリスティドがあそこの娘をイモムシに変えたんだろう」
「だって、目の前でアニエスを貶められたんだもの」
「だからこそ末路は知りたいんじゃないのか」
「まさかイモムシが蝶に戻れるなんて思わないでしょ。びっくりだよ」
破滅したなら教えて欲しかったけど、トラウマで外に出られない程度なら聞いても仕方がない。
「お前、本当に嫌いな相手には容赦ないな」
「まあね」
「アニエスの前では見せるなよ」
「これでも猫被りは得意だから大丈夫」
にっこり笑う僕に、ジャックはため息をついた。
「まあだが、お前には感謝している」
「急に何?」
「お前がそうやって過保護なくらいアニエスを可愛がってくれているおかげで、娘は害から守られている」
実際、アニエスを平民の血が混じった混ざり物と陰口を叩く連中はいる。
けれど他でもない僕が、大賢人たる僕がアニエスを子孫として認め、愛弟子にまでして、大切に育てていることでうるさい連中をある程度黙らせられてはいる。
それでもうるさい奴は大概、アニエスと魔法対決をしてこてんぱんにされてプライドをへし折られるし。
だからまあ、僕の存在がアニエスを守っているのは事実だ。
「そりゃあ、可愛い子孫のためだもの」
「それだけじゃない。アニエスは今や魔法の天才だ。師匠が良かったんだろう」
「女神様のご加護があってこそだけどね」
まさかあんな展開になってアニエスの魔力のコスパが格段に上がるなんて、誰が予想しただろう。
「それでも、お前の指導があってこそだ」
「そう、ありがとう」
可愛い愛弟子の役に立っているのなら、僕としては何よりだ。
「だが、アニエスの前では大人しくしてくれよ」
「わかったわかった」
一番過保護なのはジャックじゃないかと思うが、言わない。
これからもアニエスのことを、僕とジャックで守っていってあげたいからね。




