お兄さんの信奉する女神様とやらに会う
アリス先生が、先ほどの出来事をパパに話した。
エンキドゥさんは口を挟まず黙ってパパとアリス先生を見守る。
パパは全て聞き終わると、エンキドゥさんに頭を下げた。
「娘が世話になった。礼を言う」
「女神の命だ、気にしなくていい」
「だが、お前を信じていいのかわからない」
「そうだろうな、当然だ。自分はただ、魔族からお前たち人間を守り続けるのみ」
「そうか…」
パパとアリス先生は顔を見合わせて、これからどうするか考えている。
その間もパパはさりげなく私の頭を撫でるし、アリス先生は私のおじさんに触られた方の手を握って離さない。
「…ああ、女神が人間と話したいそうだ。ちょっと待ってくれ」
「は?」
「これで女神と話ができる」
エンキドゥさんが水晶を取り出すと、水晶から光が溢れて…ホログラム的な感じで女神様の姿が映された。
我が国教の神様じゃないけれど、たしかに神聖さを感じる美しい人。
「皆、無事ですね?よかった…エンキドゥ、ありがとう」
「女神、自分はいいから説明を」
「ああ、そうですよね…えっと、初めまして。魔の討伐を担当する女神である、ニンキガルです」
「ニンキガル様…」
「この度は、私が後手に回ったせいで怖い目に遭わせてごめんなさい」
頭を下げる女神様。
「女神様、顔を上げて。エンキドゥが助けてくれたから僕とアニエスは助かった」
「ありがとう、優しいですね。…ああ、そちらのお嬢さんはそんなに怖かったのですね。声が出なくなっている…私の力で癒しましょう」
パッと私の周りに優しい光の粒が舞って、身体も心も楽になった。起き上がってみる。
「アニエス!」
「起きて大丈夫かい?」
「うん。なんか楽になった。ありがとうございます、女神様」
「いえ、いいのです。それで、ここからが本題なのですが…」
女神様が申し訳なさそうに言った。
「魔を退けるには、世界に溢れる邪気を祓うのが一番です。そうすれば自然と存在出来なくなりますから」
「それで?」
「今、世界には魔王がいた頃と比べてやや少ないですが邪気が溢れています。なので、邪気を祓う必要に迫られているのです」
「…つまり?」
「私が力を授けますので、邪気を祓ってほしいのです」
なるほどと頷けばパパは言う。
「そのために恩を売ったのか?」
「いえ、そうではありません。純粋に誰にも犠牲になって欲しくなかったのです」
「…そうか。その力は誰でも使えるのか?もし誰でもいいなら俺がやろう」
「いえ、残念ながら根源の接続者にしか力を授けることができません」
パパとアリス先生は顔を見合わせて言う。
「なら僕が…」
「私がやります」
私が言えば、パパとアリス先生はギョッとする。
「ちょっとアニエス!?」
「何を言っている!?」
「だってさっきのでアリス先生は私が人質に取られたらなにするかわからないって…わかったから。だったら私がやる」
「アニエス…」
「人間、よく言った。そんなに小さくか弱くとも家族を大切にできる。自分は人間を尊敬する」
エンキドゥさんが褒めてくれるけど、パパとアリス先生はすごい傷ついた顔をする。
ごめんね、でもアリス先生にはちょっと任せられないや。
「…そちらのお嬢さんに力を授ける、ということでいいですか?」
「はい」
「では、力を授けます」
光の粒が私を包む。
「これで力は与えられました」
「…あの、邪気払いって具体的にはどうすれば?」
「貴女がいれば大丈夫です」
…ふむ?
「貴女が邪気に近づけば、邪気はそれで祓われます」
「じゃあ世界の邪気払いって…」
「はい、世界一周旅行をしていただければそれで」
「待って、ならアニエスは例えば魔族に触れられたりしたら…」
「魔族が死にます」
なんてことだろう、むしろ安全が増した。
パパとアリス先生がものすごく安心した顔でベッドに突っ伏す。
「よかったぁ…」
「思ったよりは危ないことはなさそうだな…」
「それでも魔族には狙われるだろうが、自分が守る。その代わり、世界一周旅行に行って欲しい」
「なら三人で、家族旅行に行こうか…」
「そうだな、しばらくの間留守はルイが守ってくれるから心配はない」
ということで、急ですが世界一周旅行が決まりました。
「苦労をおかけして大変申し訳ないのですが、どうか世界をお救いください」
「はい、頑張ります!」
「エンキドゥ、どうかお嬢さんを守ってね」
「もちろんだ、女神よ」
なんだか壮大な話になってしまったけど、まあ大丈夫でしょう。うん。




