皇后陛下はめんどうくさい
「じゃあ、今日はありがとうな。またな」
「はい、フェルナン様」
手を振って見送ってくれるフェルナン様。
その後馬車に向かう最中のことだった。
「お待ちなさい」
「…わ、綺麗な人」
思わず口をついて出た言葉に、少し驚いた顔をする彼女にああ…と思う。
表情が同じだったのでわかった。
フェルナン様の母である皇后陛下だ。
でも、皇后陛下が御付きの人を付けずここまで来るなんて…どうしたんだろう。
皇后陛下は仕切り直しするように、表情を顰めっ面に戻した。
「無礼ですよ」
「す、すみません」
「皇后陛下、僕の愛弟子になにか用?」
「ええ。一言言ってやらねば気が済まないと思いまして」
おお、最初から臨戦態勢だ。
パパとアリス先生の機嫌を損ねないでほしいのだけど。
「一言、ですか?」
「そう。侯爵が皇帝陛下に擦り寄るなら、娘は我が愛おしい息子に擦り寄るのね。親子揃って随分と世渡り上手ですこと」
シラーッとした表情で言うけど、なんとなく察した…というか、妄想してしまう。
多分皇后陛下、皇帝陛下ともフェルナン様とも上手くいってないんじゃないかな。
多分皇帝陛下があんなだからもあるし、皇后陛下のこの素直じゃないフェルナン様に似てる感じも相まって家族みんなで色々と拗れてる気がする。
まあ、妄想なんだけど。
「俺のことはいいですが、娘を悪く言わないでください」
「あら、元はと言えばお前のせいなのに」
「そんなに僕の子孫を虐めないでくれる?特権を乱用するつもりはないけど、正当防衛くらいはするよ?」
うーん。
このままじゃ良くないなぁ。
皇后陛下もお顔は好きだし、性格もフェルナン様と似てると思えば可愛らしいものだけど…今仲良くなるのは無理だろう。
色々拗れてそうだし、これは元から正さないとダメだ。
一旦撤退しよう。
「パパ、お腹すいた。帰ろう」
「アニエス…」
「…ふん。今回はこのくらいで見逃してあげるわ」
背を向けて帰る皇后陛下。
私がお腹を空かせていると思って引いてくれたのだろう、やっぱり根は悪い人ではないと思う。
まあ、実はお菓子をたらふく食べてまだお腹いっぱいなのだけど。
「あんまり皇后陛下を悪く思わないであげてね」
「…わかっている」
「アニエスは優しいね。さあ、帰ろうか。」
今度フェルナン様ともう一度遊ぶときにでも、皇帝陛下にちょっとお説教しよう。
天使様扱いされているし、多少は許されるよね?




