本当にひと騒動起きた
「本当はジャック様の子じゃない癖に!」
暴言を吐かれて、ああこういうの久々だなぁと思う。手は出してこない辺りはまだ賢い人だ。
辺境伯家のご令嬢で、お父様の妻になりたいらしいこの人。
確かエグマリヌ辺境伯家の次女だったか。
覚えておこう。
「卑しい平民の血が流れるお前に、侯爵家を継ぐ権利などないわ!」
まあ正直それはわかる。
というか、やっぱり人の口に戸は立てられないな?
誰がそんな話を漏らしたのか。
使用人たちのことはお父様も私も信頼しているので違うと思いたいが。
「お前がいると、ジャック様との結婚に邪魔なのよ!出て行きなさい!」
お前なんかお父様に相応しくねーよと口に出そうになって、ぐっと堪える。
お父様にはもっと上品で優しい人が良い。
「なんとか言ったらどうなの!」
幼い私が邪魔だと、その後も当たり散らす。
まあ、ぶっちゃけ気持ちはわかります。
が。
その後ろで般若のような顔をして、あまりの怒りで震えて動けずにいるお父様にお気づきか?
「俺の娘になにをしている」
「…あ、ジャック様!」
「名前を呼ぶことは許していないが?」
「こ、侯爵様…」
いつのまにか現れて、この人の暴言を全部聞いていたお父様。
かっこいいお顔をさらにかっこよくして女の人を睨んでる。その顔素敵。
女の人はお父様を見て最初は甘えた声を出したが、怒りに気付くと震えた声になった。
「相当殺して欲しいらしい」
「いえ、そんなっ…」
「死にたくないなら消えろ。俺の娘を傷つけることは許さない」
おお、言うようになって。
前は顔を合わせる日の方が少ないくらい関心がなかったというのに。
お父様が構ってくれるようになる前は、他の女の人とかもっと酷かったんだよと教えた方がいいんだろうか。
それでも、なんだかお父様の成長と繋いできた絆を感じて嬉しくなる。
「…っ」
そうしている間に女の人は顔を青くして逃げた。
お父様は私を抱き上げて、危害を加えられていないか全身見回す。
「大丈夫、なにもされてないよ」
「なぜ言い返さない」
「?」
なんのこと?
「お前は誰がなんと言おうが俺の子だろう」
「…パパ!」
思わず嬉しくてパパ呼びして抱きつく。
その日から公の場以外ではパパ呼びするようになったが許されている。
そしてパパは、私に対して少し過保護になった。