イモムシは蝶になれるかな?
「うーん…まあ、僕も鬼じゃないからさ」
「!」
「一年後」
にっこり笑うと、アガット侯爵は僕を戸惑ったように見つめる。
「一年後には、元に戻るようにしてあるよ?一年間、このイモムシを守り養えるなら自動的に元に戻る」
「…い、一年後」
「あれ?文句ある?」
「い、いえっ!」
ブンブンと首を横に振る彼に、イモムシを渡す。
「あとは自分で守ってあげなよ」
「は、はい!」
あーあ、残念。
てっきり見捨てるものだと思っていたのに。
「そ、それで…」
「ん?なに?」
「私は何を捧げればいいのでしょうか…」
あ、それ本当に本気だったんだ。
親子の愛ってすごいね。
ジャックはどうするのかなぁと思ってまたちらっと視線を投げたら、ジャックは少し考えた後言った。
「いらん」
「え」
「どうでもいい」
おや、許すのかとちょっと意外に思う。
アガット侯爵もそのようで、きょとんとしてる。
「…もう、アリスティドが充分仕返ししてるしな。いっそ殺してやった方が優しさだろうに」
「まあねぇ」
アガット侯爵はそのジャックの言葉に、何度も頭を下げて謝罪とお礼を繰り返す。
「この一年、そのイモムシによく言って聞かせておけ」
「はい!必ず…!」
「ちなみに僕はそのイモムシが人間に戻っても近寄ってきたら容赦なく潰すから気をつけてねー」
僕の言葉にピシッと固まるアガット侯爵だけど、当たり前じゃん。
「は、はい…っ」
こくこく頷くので、脅しもこれで充分かな。
「じゃあ、ジャック。お客様のお帰りってことでいいのかな?」
「ああ、構わない」
「馬車まで送っていくよ」
僕はアガット侯爵を馬車まで見送る。
ジャックは部屋に戻ったアニエスの元へ行くらしいので特に止めない。
「本当に申し訳ございませんでした…」
最後に頭を下げる彼。
「…そんなに自分の娘って可愛い?」
「え?ええ…それはもう」
「それならちゃんと躾はしておこうね」
「はい…」
「ただ、覚悟はしておいた方がいいよ」
僕が言えば、なんのことかとびくびくするアガット侯爵。
「イモムシに変えられて一年を過ごした人間が、元の姿に戻れたとして精神まで元通りなわけないよね」
「…あ」
「ま、頑張って」
絶望した顔の彼を馬車に押し込み見送った。
下手に愛情がある方が、お互いに辛いよねぇ。
ま、いいけど。
「さて、ジャックと一緒にアニエスを甘やかそーっと」
可愛いアニエスの笑顔を楽しみに、アニエスの部屋に向かった。




