蛇がイモムシの首に噛み付いた
「君さあ、たかが侯爵家の娘程度の分際で調子に乗りすぎじゃない?」
「な、なんですって?」
「僕は爵位こそジャックたち子孫へもう引き渡してるけど、皇室から特別な地位…大賢人としての様々な特権を与えられてるんだよ?それこそその代の皇帝すら引き摺り下ろせるほどの様々な特権を」
「し、子孫可愛さにそれを乱用する気なら皇帝陛下も黙っていませんわ!」
「その皇帝陛下もアニエスの味方だけどね」
僕が言えば、悔しそうに顔を歪める小娘。
あーあ、本当にダメ。
ジャックのお嫁さんになるには色々足りてない。
せめて、ここで土下座出来る程度の知能がないと。
「僕は潰そうと思えば君の家ごと潰せるんだよ」
「まさか、そんなこと本当になさるわけ…」
「僕は基本特権を乱用することはないんだけどね。それでも子孫の中でアニエスは特に可愛いからなぁ…何するかわかんないや。そもそも僕が何もしなくても、アニエスからジャックに話が行けばジャックはキレるだろうから結果は一緒だよ」
僕がそう言えば、きょとんとした後笑う小娘。
「ふふ、それは大丈夫ですわ」
「…へぇ、それはどうして?」
「だって、侯爵様もあんな下賎な娘本当は捨てたいに決まってますもの」
あーあ。
終わった。
まだ今後の態度次第では許してやることも考えたのに。
「そう。ところでさ、人間をイモムシに変える魔法って知ってる?」
「え」
「…ね?簡単でしょ?」
イモムシに変えられた小娘は、僕が懐から手鏡を出して見せてやればウゾウゾ蠢く。
「本当は踏み潰してあげてもいいんだけどさ。アニエスに知られたらさすがに嫌われるからね。優しい子だから」
ウゾウゾするそれを魔法で浮かべて運ぶ。一応、万が一に備えて魔法の守りまでかけてやって。
「…一定時間。そう、一年もあれば元に戻るようにしてあるよ。アガット侯爵にそれを…アニエスの知らないところで伝えて、君を渡す。あとはアガット侯爵次第だね」
屋敷内の廊下を歩いて、独り言のようにしてイモムシに言い聞かせる。
「けど、彼はこんな姿の君を一年も守り養うかな。娘とはいえ、僕とジャックに喧嘩を売ったバカに価値があると思えないしなぁ」
プルプル震えるが、実際アガット侯爵はこのイモムシに愛情を注ぐだろうか。
それはないと僕は思うけどね。
「…まあ、とりあえず。今は黙ってアニエスがどれだけジャックに可愛がられているか、実際に目に焼き付ければいいよ」
そうして絶望して、後悔すればいい。
勘違い女には、相応しい末路だろ?




