パパのお部屋の肖像画
パパが珍しくティータイムになっても私のところにこない。
心配になって執事さんに聞けば、パパは部屋にこもって執務をこなしてるらしい。
今日は忙しいなら諦めようかとも思ったのだけど、執事さんに部屋に行ってみてはどうかと言われた。
…実のところ、私はパパの部屋に入ったことがない。
それは、前はパパとそこまで仲良くなかったので遠慮があったから。そして今はパパの方から来てくれるので行く必要もなかったから。
「…いいのかな」
「もちろんです」
執事さんに言われて、色々な意味で期待を胸にしてパパの部屋に行ってみた。
「パパ、私だよ」
ノックをしても声をかけても返事がない。
無視は流石にないと思うけど、集中し過ぎて気付いてないのかな。
「…いい?」
「お嬢様なら大丈夫かと」
執事さんに許可?をもらってパパには悪いけど入っちゃう。怒られるかな。
パパの部屋は期待していたより質素というか…必要なものしか置いてない殺風景な部屋。
でも、その中で一際目立つのは一つの肖像画。
「…」
綺麗な人。
金のストレートの髪に、青くてキラキラした大きな目、高い鼻にぷっくりした唇。
綺麗な肌はちょっとだけ心配になる白さで、体型も少し細っそりし過ぎている気がする。
儚げな、今にも消えてしまいそうな美人。
「綺麗…」
思わずぽそっと呟いてしまった。
がたっと音が聞こえて、振り向けば机に向かっていたパパがこっちを見てる。
「…アニエスか」
「パパ!そろそろティータイムだよ?」
「そうか…ルイが入れたのか?」
「うん!」
ルイというのはパパの執事さん。
「…ふむ。まあ、アニエスなら構わないが」
「うん?」
「この部屋には基本的に人を入れるなと言っている」
「え!?ごめんね!?」
「バカ、お前は特別だ。娘なんだから」
パパは私を抱っこする。
「ティータイムだったな。中庭にでも行くか」
「うん!」
「…綺麗な人だろう」
話を蒸し返されてきょとんとする。でも、本当に綺麗なので素直に答える。
「うん!すっごく綺麗!天使様みたい!」
「…今はもう、本当に天使様になったんだ」
「…そうなんだ」
意味するところはわかる。パパが悲しそうなのもわかる。
「なんでお前が落ち込むんだ」
「だって、パパの大切な人なんだろうなって」
「…そうだな。でも、お前も俺の大切な愛おしい娘だ」
「えへへ」
パパの大切な人がもういないことを悲しんでたんだけど、ヤキモチと思われたのかな。
でも嬉しい言葉を聞けたからいいや。
…でも、あの〝天使様〟は誰なんだろう。




