僕の愛おしい人
ロック・ペパン・クリゾベリル。それが僕。
野心家と呼ばれるマルソー・オダ・クリゾベリル伯爵の次男。
伯爵家を継ぐ優秀な兄、辺境伯家に嫁ぐ予定の美しい姉。その残りカスでしかない僕。
「父上も母上も、僕には期待はしていない…」
努力はしている。
実際、歳の割には優秀だと評価はされている。
けれど、家を継ぐわけでもない僕は兄のスペアとしての価値しかないのはわかっていた。
「そんな僕を、褒めまくってくれるのは…貴女が初めてだったんです、アニエス様」
父が突然僕に命じたのは、侯爵家のご令嬢に取り入ること。
あわよくば恋愛結婚まで持ち込んでしまえと言われた。
けれど僕は、初めて期待されたと喜んでそれを受け入れた。
そんな浅ましい僕に、アニエス様はなんの毒も裏もない笑顔を向けてくださった。
そして言ったのだ。
「ロックくんはイケメンだね」
「パパが一番カッコよくて素敵だけど、ロックくんも大好き!」
「ロックくんは穏やかでイケメンで、最高の男の子だね!」
「ふふ、ロックくんだーい好き!」
その僕を全肯定してくださるお言葉に、僕の心は救われた。
僕は初めて、ちゃんと人として認められた気がした。
その後、父によく一日であそこまで取り入ったと褒められたけど嬉しくなかった。
アニエス様との時間のために、父には逆らわないけれど…僕は、僕のためにアニエス様のそばにいたい。
そして、アニエス様にいつか少しでも恩返しが出来たなら…それが僕の幸せだ。
「そのためにも…一刻も早く一人前の男にならなくちゃ」
僕はアニエス様との出会いの後、さらに勉強に武術にと色々な努力を重ねている。
より身が入るようになり、輪をかけて優秀になったと囁かれるようになった。
父と母の僕を見る目も変わった気がする。
兄と姉も、よく褒めてくれるようになった。
けれどそんなことよりも、アニエス様に尽くしたい。今はその一心だ。




