お嬢様に聞いてみる
あれから私は定期的にセリーヌ様とお茶会をしている。
セリーヌ様はすっかり婚活に前向きになって、今では素敵な婚約者もゲットしたという。
婚約者との関係も良好で、アドバイスした私はセリーヌ様にとても感謝された。
今日もそんなセリーヌ様と絶賛お茶会中なのだが、はたと思いついた。
そうだ、セリーヌ様なら皇帝陛下とパパの関係について知ってるかもしれない。
「セリーヌ様、セリーヌ様」
「なんですの?アニエスちゃん」
「セリーヌ様に質問してもいいですか?」
「もちろんですわ!なんですの?」
「皇帝陛下とパパの関係とか…聞いてもいいですか?」
聞いてちょっと不安になって、俯いてしまう。
セリーヌ様は、そんな私の頭を優しく撫でる。
「私に遠慮はいらないですわ。可愛いアニエスちゃんの質問ですもの。答えますわ」
「セリーヌ様…!」
「皇帝陛下にひどいことをされたとも聞きましたわ。皇帝陛下は一転してアニエスちゃんを庇護すると仰ったそうですけれど…気になるのも当然ですわ」
そしてセリーヌ様から聞いた皇帝陛下とパパとの関係は、割と壮絶だった。
皇帝陛下はまだ幼い第一王子だった頃、第二王子だった弟を敵国のスパイによる暗殺?で亡くしたらしい。皇帝陛下を庇ってのことだったとか。
皇帝陛下は自分のせいだと塞ぎ込み、それを幼く純粋な上自身も弟ラブで気持ちがよく分かると思っていたパパが「俺が従兄上の弟になる!」と本人に宣言してから依存というか甘やかしが始まった。
その後成長して、そこからが本当の共依存の始まり。パパの弟…私の本当のお父さんが、駆け落ちした。弟ラブだったらしいパパは落ち込み、皇帝陛下はそんなパパを甘やかした。
そんな状況で皇帝陛下は即位しパパは侯爵になり、二人の関係はますます歪み始めていったらしい。そしてその後、パパの婚約者がうんぬんかんぬんとかもあって取り返しがつかなくなったとか。そこは言葉を濁された。
「…控えめに言って地獄」
「ですわね」
「ていうか、本当のお父さんにそんな責任の一端が…」
「アニエスちゃんは悪くありませんわ」
「ううん…はい…」
でも、一番の原因はパパの婚約者さん…との出来事な気がする。話し振り的に。でもそこはセリーヌ様は言いたくないっぽい。そりゃあ人の婚約者の話だもんね。
「…お話してくれてありがとうございました」
「いいえ。このくらいならいくらでも」
子供相手でもちゃんと向き合ってくれるあたり、セリーヌ様は高飛車だけど結構いい人だ。幸せになってほしいな。
「ところで、皇室と教会の仲をパパが取り持ったって本当ですか?」
「あら、よくご存知ですわね」
今のうちに聞けるだけ聞いておけと、セリーヌ様に質問をさらに投げかける。セリーヌ様はまたも丁寧に答えてくれた。
「皇帝陛下は、神を信じておりませんわ。弟君のことがありましたから…信仰などかなぐり捨ててしまわれたんですの」
「はい」
その気持ちは、神への絶望は…想像を絶するほどのものだろう。
「元々皇室と権力闘争していた教会が邪魔だったのもあって、皇帝陛下は即位後すぐに教会をぶっ潰そうとしたんですの」
「あー…」
半分以上、弟を救わなかった神様への復讐に近いものだったのかな。
「皇帝陛下は反対意見も押しのけて教会潰しに躍起になり、実際色々と権力や法を使い教会の地位をだいぶ追い落としましたわ」
「わぁ」
「けれど、いよいよ本格的に教会を壊してしまおうという時侯爵様が待ったをかけたんですの」
パパも神様を信じてなさそうだったけど。
「…うふふ。さすがアニエスちゃん、その顔は気付いてますわね?ご名答ですわ。侯爵様はおそらく、皇帝陛下と同じく神を信じておりません」
「じゃあなんで?」
「さあ?色々な策謀もおありでしょう。けれど、教会を潰した結果広がる民の混乱なども憂慮されたものと思いますわ」
パパ、領民たちは本当に大事にしてるからね。ありそう。
「なるほどなるほど…」
「ふふ、他にも気になることがあればいつでも聞いてくださいまし」
「本当にありがとうございます!」
セリーヌ様はまた私の頭を撫でる。
優しい手つきに、なんとなく落ち着いた。