また面倒くさい人が現れた
しばらくはパパと仲良く平穏に過ごして、パパのお顔を眺めて幸せに過ごしていたのだけど。
ここに来て面倒くさい人が現れた。
「だから、この私が貴方と結婚してあげると言ってますのよ!?」
「断る」
結婚適齢期の公爵家のお嬢様が、パパに詰め寄る。パパは嫌がるがめげもしない。
「どうしてですの?私と結婚すればさらなる繁栄も約束されますわ!」
「貴女の家の力を借りないと生きていけないほど落ちぶれてはいない」
「ぐぬぬ…」
いや、まあ。
パパの再婚を反対する権利は私にはないし、パパが受け入れるとなればそれはそれでいいんだけど。
あの人高飛車で苦手なんだよなぁ…。
いつか義母になったらどうしよう。
「…あら?」
ドアの隙間からこっそり覗いていたのだけど、普通にバレた。
面倒くさいことになったらどうしようとちょっと焦るが、あの人…セリーヌ・クローデット・エムロード公爵令嬢は私を手招きした。
「おいで、子猫ちゃん」
「こねこ…?」
「うふふ。可愛いですわ」
セリーヌ様は渋々中に入って近付いた私を、事もあろうに自ら抱き上げた。
え、重くない?大丈夫?腕折れない?
まだ七歳の子供とはいえ、人の子一人抱き上げる腕力あんの?お嬢様なのに?
「ねえ侯爵様、私このあいだの教会へのご挨拶で、この子を見つけて一目惚れしましたの。この子のお母さんになりたいですわ。お願い」
「俺は結婚はしない」
「じゃあこの際養子に…」
「俺の娘はどこにもやらない」
「じゃあどうすればいいんですの」
なんだこの状況。パパに一目惚れではなく私に一目惚れとは。
「貴女の可愛いモノ好きは度を超えてる」
「今更ですわ」
「だから目に入れたくなかったのに、教会で見つかっていたとは…」
…なにこの状況。
ちらっと、私を抱き上げたままのセリーヌ様の顔を見る。
顔は好みなんだよなぁ。
整った綺麗な顔。美人さんだ。
高飛車なのがちょっと引くけど。
「あら?どうしましたの?可愛い子猫ちゃん」
「…猫じゃなくて人間です」
「まあまあ!お声も可愛らしくて素敵ですわ」
マイペースだなこの人。
「とりあえず、一緒にお茶に致しましょう?」
「え」
「私、子猫ちゃんと中庭に行ってきますわ」
「待て、勝手に決めるな」
「では失礼しますわ」
パパのことなどなんのその。
セリーヌ様は私を連れて勝手に中庭に行ってしまい、使用人たちも逆らえずどうしようもなくてとりあえずお茶の準備をする。
パパは頭を抱えつつ結局お茶の席に交ざった。




