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第二章(06) 美しい里

 陽が昇る。心を不安にざわつかせる赤い光が消え去る。


 湖は変わらず漆黒を湛えたままだった。そこにメサニフティーヴは白い息吹を吹きかける。

 竜の力によって撫でられた水面は波打ち、その白波は湖の隅々まで広がっていく。

 湖を死に染め続けていた存在は、もういない。漆黒は燃え上がった。そして青々とした水が姿を現す。


 どこまでも青く、清らかな水。せせらぎが静かに森に響く。湖から生まれる清らかな風が、ゆっくりとあたりの死を薄めていく。


 この湖をもとに、周囲も浄化されていくだろう。

 そして完全ではないものの、この場所はいつの日にか、かつての姿を取り戻すだろう。


「ここの竜達は、この場所が、大好きだったんですね」


 メサニフティーヴの背に飛び乗ったフェガリヤは、ただただ美しい湖を見下ろす。


 ――だから彼らは死してもこの場所を離れなかった。

 ――この場所を死に場所に選んだ。


 結果、彼らの故郷はひどく穢れてしまったけれども。

 旅立ちの時。メサニフティーヴは羽ばたき、青空に舞い上がった。


 その羽ばたきに、また湖は波打ち、鈴のようなせせらぎを響かせる。

 底すらも見えるほどの透明を取り戻した湖に、もう竜はいない。



【第二章 離れがたき愛の底 終】

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