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あたたかいごはん





─────ドゴオォォォォン!!






耳をつんざく爆音が突如鳴り響き、少女は目を覚ました。





少女が爆音に疑問を抱いていると、続けて人々の叫び声が聞こえてきた。





────幻聴だろうか…?





少女は外に出ようと思うが、身体に全く力が入らず起き上がることができない。





少女は起き上がるのを諦めると、視界が明るいことに気づく。

さっきまでは真っ暗だったはずの馬小屋が、外からの光で赤く照らされているのだ。





少女は不思議に思ったが、やがてその目を閉じた。








─────もうどうでもいい。








この村も─────








─────この世界も。







薄れゆく意識の最中……なぜか馬小屋の扉が空いたような気がしたのだが、少女はそのまま意識を手放すのだった─────
























▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲






















「あれ……?ここ…は…?」




少女が目を開けると、映ってきたものは知らない景色だった。




一体どれだけ寝たのだろうか…

なんだか目を開けるのも久しぶりのように感じる。





少女は上半身を起こすと、周りを見渡す。




(部屋の中……?)




そこはどこかの部屋の中のようだったが、少女は不思議で仕方がなかった。




村の部屋とは広さも見た目も全く違う…

走り回れるくらい広いし、絵本の中にあったお城の部屋みたい…





最初はボーッと見渡していた少女だったが、時間とともに脳が覚醒しだすと急激に不安が押し寄せてきた。





私はどうしてここで寝ていたんだ…?

この清潔な洋服を着せたのは誰なんだ…?

私なんかがベッドに寝ていることがバレたらまずいのではないだろうか…?





思い出せ、私が最後に寝たのはいつだっけ…




少女は必死に思い出そうとするが、どう考えてもこんなところに来た記憶はない。




そもそも、こんな広くてきれいな部屋など村には存在しないはずだ。





少女が眉をひそめて唸っていたその時─────






ガチャリ、という音と共に部屋の扉が開いた。





「!?」




驚いた少女は逃げ出そうと思ったが、足が思うように動かない。




(どうしよう…えっと、えっと……)





とにかく謝らなければ…と少女は言いたいことを頭にまとめるが、先に言葉を発したのは部屋に入ってきた女性だった。





「あら、目が覚めましたか。魔王様の言う通りですわね」




女性は少女に驚くことなく、ベッドの横の椅子に腰を下ろした。

黒を基調としたドレスのようなものを着ているその女性は、肩に少しかかる長さで輝くような銀色の髪をしており、目は透き通るような明るい紫色をしていた。

表情は終始無表情で、瞬きすらしていないのではないかと思うほどだ。





「え、えっと…」

「軽食を作ってきましたので、お食べ下さい……と思いましたが、その状態だと厳しそうですね」




女性は淡々と話していたが、立ち上がって部屋を出ていった。

するとすぐに、台車のような物を押して部屋に戻ってくる。




トレイの上に乗っている器からだろうか、立ち込める良い匂いに少女は空腹だということを知った。





(そういえば、最後にご飯食べたのいつだっけ…)





女性は器を手にして椅子へ座ると、スプーンで中身を掬って息を吹きかけ、熱を冷ます。




「お粥を作ってきました。塩粥なので味はありませんが…胃への配慮のため、我慢して下さい」




女性はそう言うとスプーンを少女の口元へ移動させた。





鼻へ抜ける美味しそうな香りに少女は生唾を飲み込むが、我慢して女性の方を向く。




「わたし…食べていいの…ですか…?」




少女は今まで生きてきてこのような立派な食べ物を食べたことがなかった。

だからこそ、私なんかが口にしてしまって良いものなのかと戸惑って聞いたのだ。





その質問に、不動だった女性の表情が少し変わった。

といっても、ほんの僅かに眉毛が内側へ動いたくらいだったが。




「ええ、勿論ですよ。ほら、どうぞ?」




女性はそう言ってもう一度少女の口元へスプーンを移動させた。





少女は若干の不安を残しつつも口を開けると、女性は優しくスプーンに乗ったお粥を少女に食べさせた。





「……!!」




お粥を一口食べた少女の目がカッと開く。




(こんなに美味しいご飯…食べたこと無い…!)





エグみや臭みなど一切せず、それでいて噛めば噛むほど甘い味が広がる。

そこに軽い塩味が加わっていることで、さらに食欲を増幅させる。





少女はゆっくりと味わうようにお粥を噛み締め、そして名残惜しくも飲み込んだ。




その様子を見た女性が再び器からスプーンで掬い、また少女の口元へ移動させる。





「食べて…いいのですか…?」




少女の問いかけに、女性は僅かに首を傾げる。




「……?ええ、こちらのお粥は貴方に作ってきたのですから。」




女性の言葉を聞き、少女は口を開けるとそこへまたスプーンが入る。





一口、二口と食べるごとに少女の目は熱くなり、食べ終わるときには大粒の涙が頬を伝っていた。




「大丈夫ですか?どこか痛みますか?」




その様子を見ていた女性はハンカチを取り出すと、優しく少女の涙を拭った。




少女は首を振ると、ポツポツと喋る。





「こんな…美味しいと…温かいのごはん…初めて食べた…から…」




少女の言葉に一瞬首を傾げた女性だったが、すぐに首を戻すと少女の頭を撫でる。




「まだ身体は完全に回復しておられません。もう一眠りしてください」




そういった女性は少女の胸を軽く押し、横に寝かせる。





「おやすみなさいませ」




女性は食器を片付けると、部屋から出ていってしまった。





少女は温かい毛布に包まれながら考える。




(ここは本当にどこなんだろう…)




あんなに美味しいご飯をくれて、こんなに暖かいベッドで寝かせてくれる…

もしかして私はもう死んじゃってて、ここは天国なのかな…




考えているうちに睡魔が襲ってきて少女は眠りにつく。




その睡魔は少女が生きてきて初めて経験する心地の良い睡魔だった────



魔王視点はコチラ!

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