第五章 91話 大峰家の方針と義輝様
1554年6月22日
前日に父上と、義輝様に伺うことのお伺いをたてたら、夕食を一緒にということになった。
義輝様からは、いちいち事前に言わなくても訪ねて来てくればいいとも言われた。
俺たちは夕方、父上の屋敷に向かった。
屋敷の前で、弟たちと近江、下総と会った。
武蔵「兄上、今日は我らも呼んで頂きました。」
信輝「そうか。何か話があるのかな?聞いた?」
武蔵「いえ、特に何も。」
信輝「そうか。」
俺たちは父上の屋敷の広間に案内された。
揃ったのは、俺、備前、肥後、陸奥、武蔵、播磨、越前、近江、下総と、采女、又兵衛も席に着いた。
座ったらすぐに義輝様が入ってきた。
義輝「おう、武衛。戻ったか。直江津と船が完成したら見せてくれよ。」
信輝「はい、わかりました。」
義輝「それと申し訳ないとは思ったが、武衛がまだ帰って来ていないときに詩とは会わせてもらったぞ。」
信輝「はい、詩から聞いております。ご兄妹でまた会うことができて詩も喜んでおりました。」
義輝「そうか。大峰家のおかげじゃ。」
そこに父上と祖父、伊勢叔父が入ってきた。
信秀「皆揃っておるな。」
広心「武衛、帰ったか。又右衛門の墓参りに行ってくれたそうだな。すまないな。」
信輝「はい、帰りました。いえ、とんでもございません。」
信秀「では始めよう。本日は、武衛の屋敷の賄い方に頼んで、武衛が考え出した品を並べさせたぞ。」
義輝「おう、これは見たことない料理ばかりだな。」
広心「このようなものを食べておるのか。」
大久保伊勢「これはなんだかすごいな。」
信秀「本日はまずわしから話があってな。このような形にさせてもらった。義輝様もお聞きください。以前、少し話したが、わしは先日鉄砲で撃たれてから、左手が上手く動かぬ。日常生活では全く問題ないが、馬に乗ったり、武器を持ったりして激しく動くと痛みがあり、以前のようには勝手がいかん。そこで、わしはもう隠居し、家督を武衛に譲ろうと思う。ただ、色々と準備もあるので、今年いっぱい引継ぎの期間とし、来年を持って家督を譲ろう。武衛も皆もそのつもりでいてくれ。」
一同「ハッ。」
信秀「だが、わしも父上もまだまだ元気だ。何かあれば何でもやるから言ってくれ。武衛に従おう。」
信輝「わかりました。ありがとうございます。」
信秀「武蔵、播磨、越前もしっかりな。お主たちの下の弟たちも元服させ次第、武衛の指揮下に付けるからな。」
武蔵「はい、ご期待に応えられるよう兄上に従って頑張ります。」
播磨「しっかりやります。」
越前「わかりました!!」
信秀「近江、下総も父たちのように武衛を支えてくれ。」
近江「はい、畏まりました。」
下総「父に負けないよう励みます。」
信秀「備前、肥後、陸奥もこれまで同様に武衛の相談に乗って助けてやってくれ。」
備前「はい、殿にこの命捧げます。」
肥後「はい。」
陸奥「わかりました。」
信秀「采女、又兵衛も頼んだぞ。」
采女「はい。」
又兵衛「ハッ。」
信秀「では始めるか。」
義輝「待ってくれ。余ももう将軍ではないが、武衛のため、大峰のためにできることがあれば何でもやりたいと思う。本当は武衛の家臣となりたいのだが、余が大峰の家臣となることで迷惑もあるだろう。ただ、行くところもない余だ。申し訳ないが、宜しく頼む。いずれは時機を見て家臣にしてくれ。」
信輝「ありがとうございます。宜しくお願い致します。」
信秀「義輝様ありがとうございます。では始めよう。食べながらでも話はできるからな。」
広心「そうじゃな。せっかくの料理が冷めてしまう。」
そうして食事が始まった。食事というか結局宴会のような。
信秀「上方の方はどうなるかのう。」
広心「しばらくはこちらには何もないだろう。しかし、義輝様がご存命であることを知ったら仕掛けてくる可能性がある。それに備えてしっかりと領内を治めることじゃ。」
義輝「すまないな、武衛。おそらく今回の件ももとはと言えば、言いなりの将軍を立てて自分の思い通りにしたかった晴元辺りが、余が言うことを聞かなかったことから計画を立て始めたのだろう。そちが助けてくれた中尾城の戦いや、右京が助けに来てくれた山崎の戦いでも晴元は最初から三好方と繋がっており余を殺そうとしたのではないか。そして、それが成し遂げられなかったため、義道殿を連れてきて大義名分を作り、大規模な軍を起こして今度こそとやってきたわけよ。」
信輝「確かにそうかもしれません。」
義輝「だが、義道殿を将軍にすることには成功しているが、余はこうして生きている。余が生きていることが知れれば、余を今度こそ始末しようと仕掛けてくるだろう。そうしないと今度は余を擁して今の政権を揺るがす者が出てくるかもしれんと思うだろうからな。こちらが何とも思っていなくても必ず何かしてくるだろう。右京と備後が甲賀者に狙撃されたとも聞いた。甲賀者は完全にあちら側に立っている。何を仕掛けてくるかわからぬから、武衛も気を付けてくれ。」
信輝「はい、ありがとうございます。」
義輝「武衛、皆も余のためにすまない。」
義輝様は皆に頭を下げた。
広心「義輝様おやめください。先日お話ししましたが、我ら大峰は、義澄様の子孫に忠誠を尽くすことを誓っているのです。それに我らは同族ではないですか。これから細川晴元殿とその連合軍との長い戦いが続くでしょうが、皆で力を合わせ乗り切っていきましょう。」
信秀「そうですぞ。それに我ら大峰は負けませぬ。大船に乗ったつもりでおって下され。」
義輝「頼みます。余にもできることがあれば何でもやるので、武衛、そちが指示してくれ。」
信輝「はい、そうさせて頂きます。」
越前「義輝様!共に戦いましょうぞ!」
場が静かになり始めたときにこういう者がいると救われるよな。勢いで話す。
下総「越前、いいこと言うな。義輝様、あまりそう気になさらず。我らもそんなに深刻には思っておりませんので。」
そして下総はいつも少し軽い。お調子者というか。
武蔵「はい、祖父さまが仰られたように我らは、兄上に従って義輝様を体を張ってお守りいたします。」
真面目。
播磨「はい、戦いましょう。」
冷静。
近江「今からそんなに硬くならずに、できることからやって参りましょう。」
器用。
信輝「しかし、細川晴元はすぐに仕掛けてくるでしょうか?」
義輝「いや、あいつのことだ。すぐにというわけでもないだろう。山崎の戦いで行方を眩ませてから準備をするのに何年もかけている。ただ、その間も用意周到に準備に準備を重ねておる。表立って仕掛けてくるのには何年か、かかるであろうが、それまでも水面下では色々としてきそうだ。こちらもそれを見逃さずに対応し、先んじて抑えられるところは抑えていかないとな。」
信輝「そうですね。後手に回らないように気を付けて、手を打っていきましょう。」
備前「はい、殿のお考えに従います。何でもご指示ください。」
肥後「まずは、領内の発展と人材育成ですかね。」
陸奥「軍備も補強していきましょう。」
信輝「富国強兵か。皆頼むぞ。」
備前・肥後・陸奥・武蔵・播磨・越前・近江・下総「ハッ!」
広心「頼もしいな。若い世代も育っておるようでよかった。」
信秀「そうですな。父上が考えた仕組みのお陰です。」
大久保伊勢「今度は学校というものも始めるそうではないですか。期待できますな。」
義輝「余も早く大峰家の者になりたいぞ。」
広心「義輝様、奥方様はどうされたのでしたかな?」
義輝「この度の戦に巻き込まれて残念ながら。」
広心「そうでしたか。それはお悔やみ申し上げます。」
義輝「何もしてやれなっかたので可哀そうなことをしました。」
広心「そのお気持ちが届けばいいですな。実家の近衛家からは何か?」
義輝「いえ、その後は何も。義兄とは連絡していますが、何もないですね。」
広心「お子様は?」
義輝「まだおりませぬ。」
広心「側室などは?」
義輝「そのような余裕はなかったのでおりませぬよ。」
広心「そうですか。」
祖父が何を考えているか、義輝様以外はなんとなくわかったところでその日は終わった。




