第一章 7話 思い付いた計画
1543年3月20日
今日は学問、稽古が休みのため計画していた山狩りの日。
早朝から屋敷の広い庭にかなりの人数が集まった。
俺、竹千代、辰千代、千凛丸、長福丸、鷹千代に、戸田隼人の子で普段は忍の里で修行をしている角丸、泉丸、市丸が参加。山下兵庫と中村主計、それぞれの家の家臣たち、戸田隼人配下の戸隠衆と出浦清種配下の出浦衆もたくさん来ている。かなり大所帯。
戸田隼人の配下の戸隠衆は、父上と戸田隼人の配慮で、戸隠衆の大岩一族の時期当主である大岩又兵衛が俺の配下となることになり、大岩一族五十人が俺の周りを警護することになった。この大岩一族は又兵衛に指示を出すことで今後俺が自由にしていいらしい。
大岩又兵衛は16歳、長身で細身、戸隠衆でも期待の若手。
戸隠衆は戸隠流の忍者集団でいくつもの一族からなっており、全部合わせると六百人くらいにはなるらしい。その棟梁である戸田隼人は相当すごい。そこに養子縁組をさせた祖父もすごい。
近くに控えてくれている又兵衛に俺から話しかけた。
松若丸「又兵衛、これからよろしく。色々とお願いすることが多いと思うけど頼むね。」
又兵衛「はい。松若丸様に直接お仕えできるとは光栄です。我ら大岩一族、粉骨砕身、松若丸さまのために働かせて頂きます。なんなりとお申し付けください。」
松若丸「わかった。とりあえず今日よろしく。」
又兵衛「畏まりました。」
話しただけわかる。めっちゃ優秀だ。こんな優秀な忍が労せず手に入ってしまった。祖父と父に感謝。
これから大峰城から西へ山を登って行くことになっている。
これだけの家臣たちと手練れの忍がたくさんいて、天気にも恵まれて、ちょっとしたハイキング気分の俺達は山を登り始めた。
道も歩くには不便のないくらいの整備はされているようだ。
俺は集団の真ん中あたりを同世代の子たちと歩いてる。
松若丸「天気良くてよかったね。」
千凛丸「そうですね。たくさん獲物があるといいですね。」
松若丸「そうだね。猪とか鹿とか兎とか?あと川で魚もたくさん獲ろう。それから山菜、茸もね。」
千凛丸「この山は動物も山菜なども豊富なのできっと大丈夫でしょう。鳥もいいかもしれませんね。」
松若丸「千凛丸は狩り来たことあるの?」
千凛丸「はい、何度か。父に連れられて。」
松若丸「そうなんだ。じゃあ色々教えてね。」
千凛丸「畏まりました。」
松若丸(だって。聞いてた?)
竹千代(聞いてたよ。まあ肉とか魚とか山菜はそうなんだけど、せっかく来たんだから前言ってたように何か商売になるものないかな?)
辰千代(例えば?)
竹千代(何だろう?)
松若丸(椎茸が儲かるらしいよ。『探索』で椎茸探してよ。椎の木とクヌギの木で栽培もするからそれも。あと、薬草育てたいから、葛根、麻黄、日桂、芍薬、生姜、大棗、甘草を『探索』で探して。これがあれば葛根湯できるらしい。)
辰千代(なるほど。椎茸と薬草は儲かりそう。)
松若丸(栽培方法は俺が『検索』で調べて、辰千代が『技術開発』でなんとかして、後は安倍家と戸隠衆に協力してもらおう。)
竹千代(いいね。わかったけど、もう一回言って。覚えられん。)
松若丸(ハハ。そうだね。もうちょっと上行ったらまた言うわ。多分ない物もあるし。なかったら八善屋に頼もう。)
辰千代(ってかよく知ってるね。)
竹千代(確かに。)
松若丸(昨日『検索』で調べた)
竹千代(さすが。真面目。)
辰千代(まめだね。俺にはできない。)
竹千代(几帳面。)
辰千代(細かい。)
松若丸(それ褒めてないよね。まあいいから探して。)
俺も片っ端から『鑑定』を使って何かいいものはないか探しながら歩いて行く。
松若丸「あっ!」
千凛丸「いかが致しましたか!」
松若丸「ああ、すまない。そこを掘ってみて欲しい。山の芋があるんじゃないかな。」
竹千代(自然薯?よく見つけたね?)
松若丸(『鑑定』しまくってたら見つけた。)
辰千代(なるほど。便利だね。)
大岩衆、出浦衆と長福丸、鷹千代も手伝って掘ってみると自然薯をいくつか収穫できた。
さらに歩いているうちにもいくつも収穫できた。
目的地周辺で、昼過ぎまで狩りを行い、猪、鹿、兎、熊、狸、鳥などを捕らえた。魚も捕まえた。ここでは角丸、泉丸が大活躍。将来かなり期待出来そうだ。山菜もたくさん。今日はご馳走だ。
目的の椎茸も見つかり、薬草は葛根、芍薬は見つかった。
帰りは北の方へ迂回して山を降りることになり歩いていると。
松若丸(川があるね。南浅川か。この辺いいな。)
竹千代(何が?)
辰千代(拠点でも作る?)
松若丸(家畜小屋とさ、菜園、薬草園を作りたいなと思って。)
竹千代(家畜って?)
松若丸(『検索』で調べたらさ、この時代でも牛も豚も鶏もいるらしいよ。)
辰千代(そうなん?いいじゃん。牧場もあったらよくない?)
松若丸(いいね。薬草も頼むし家畜も、馬も南部馬を八善屋に頼んで探してもらおう。)
松若丸「又兵衛、頼んでいい?」
又兵衛「はい。」
松若丸「この南浅川沿いで、できれば割と下の方で、広い土地を確保して、菜園、薬草園、牧場を作りたいんだけど、適した場所がないか探してもらっていい?」
又兵衛「畏まりました。すぐに探します。」
又兵衛は配下に命令し散って行った。
その後、更に北に廻って歩いていたところ、びっくりするものを見つけた。
松若丸(『鑑定』使ってたら油って出るんだけど、油?)
竹千代(油って何の?菜種とか?)
辰千代(『検索』でここの地名と油で調べてみたら?)
松若丸(今やってみたら油田だってさ。マジか。こんなところで油出るの?)
竹千代(それすごくない?『技術開発』で油田と製油の道具作ったら油取れるじゃん!)
辰千代(何に使う油?食用じゃないよね?)
松若丸(食用じゃないでしょ。あと天然ガスも出るんだって!大発見!使用方法はあとで考えよう!)
館に帰って来て解散し、俺ら三人は台所に来ている。賄い方はあまりの量の多さに困惑していた。
そして解体された獲物と下処理した魚、山菜で色々と作ってもらおうと賄い方と話していたが、結局、肉や魚が食べれればいいかと諦めて俺の部屋に戻ることになった。自分で作るのが早いのだが、この身体ではまだ無理だった。あと数年は我慢しよう。あと、猪とか鹿の肉だから調理も難しいか。
その後、賄い方が作ってくれた食事は十分美味かった。満足。これからも楽しみだ。頻繁に肉と魚を出してくれるようにお願いしておこう。
夕食後、また俺の部屋に二人を呼んだ。
松若丸「さて、何から話すかね。」
竹千代「まずは肉食えてよかったじゃん。干し肉にもするって言ってたからしばらくは困らないでしょ。」
辰千代「そうだね。とりあえずは。また休みの日に狩りに行けばいいし、誰かにお願いしてもいいし。あとはさっき言ってた牧場と菜園の場所が決まれば、八善屋に言って色々探してもらって、でいいんじゃん?そこで作ったもの売れば。」
松若丸「そうだね。大岩一族も配下になってくれたし。あとは油田とガス田か。プラスチック作れないかな?」
竹千代「それこそ『検索』で調べてみたら?」
松若丸「そうだね。調べてみる。」
松若丸「無理だ。機械を作るのが無理。『技術開発』使ったとしても、その機械を作るための機械を作ることが無理。残念。」
辰千代「じゃあ油とガスは燃やすくらいか。料理とか風呂沸かすとかかな?そんな使い勝手よくないね。」
竹千代「あとは武器に使えるかな?」
松若丸「無理だね。調べてもよくわからん。燃やしてビニールハウス作るとかも考えたけど、別にそこまでか。じゃあとりあえず保留で。何か思い付いたら教えて。」
竹千代・辰千代「わかった。」
二人が帰った後、部屋でまた考えていると又兵衛が帰ってきた。
又兵衛「松若丸様、よろしいでしょうか。」
松若丸「又兵衛、おかえり。入って。」
又兵衛「はい。失礼致します。」
松若丸「いい場所あった?」
又兵衛「はい、こちらの地図をご覧頂いていいですか?この辺りなら地盤もよく、地質もよくかなり広く使えそうです。」
松若丸「ありがとう。じゃあここに牧場と家畜小屋と菜園、薬草園を作ろうと思うから、かなり広く準備始めてもらっていい?父上には許可もらっておくから。」
又兵衛「畏まりました。」
又兵衛が出ていった。
よし、父上のところに行ってみよう。
松若丸「千凛丸いる?」
千凛丸「はい。」
うん、いるのわかってた。俺が行くところどこでもちゃんと付いて来て、竹千代、辰千代と話してるときも廊下で黙って控えててくれている。なんていい家臣なんだ。
松若丸「今から父上にお話しがあるんだけど、伺っていいか聞いてきてもらっていい?」
千凛丸「はい、畏まりました。お待ち下さい。」
千凛丸の足音遠ざかっていき、少しすると足音が戻ってきた。
千凛丸「若、すぐに参れとのことです。」
松若丸「わかった。行こう。」
数枚の紙を持って千凛丸と共に廊下を父上の部屋へと歩く。
父上の部屋は同じ建物の中だが、結構離れている。
松若丸「失礼致します。松若丸です。」
信秀「入れ。」
松若丸「はい。」
部屋に入り、父上の前に座る。
父上は何か読み物をしていた。
信秀「どうした?何かあったか?」
顔を上げた父上が微笑む。
松若丸「夜分に申し訳ございませぬ。お話ししたいことがございまして。」
信秀「そうか。その前に、水車、水路、堤防のこと、主水と隠岐から聞いておるぞ。なんでもお主の指示で考えたのは辰千代だとか。ようやったな。主水と隠岐も大層喜んでおったわ。」
松若丸「ありがとうございます。お役に立てて嬉しく思います。」
信秀「主水と隠岐などは竹千代も合わせてお主たち三人のことを神童と言っておったぞ。本日の山狩りでもお主たち三人は活躍したそうだな。普段では考えられない程の獲物があったと聞いた。帰ってからもまた三人で話しておったそうではないか。その持っているものは関係あるものか。また何か思い付いたなら話してみてくれ。」
神童は言い過ぎだけど、まあ現代の知識を持ってる人がこの時代に来たらそうなるよな。それに能力あるし。さらに現実世界の俺ら、この父上たちより年上だし。まあゲームだし。っていうのは思わないようにしよう。
狩りは、やっぱりやり過ぎたか。『検索』『鑑定』『探索』を使いまくったからな。皆驚いてたしな。
松若丸「神童などとはとんでもございませんが、ありがとうございます。こちらをご覧頂いてもよろしいでしょうか。」
隠岐殿に渡した設計図、又兵衛に調べてもらった今回の予定地を書き加えた地図を広げる。
信秀「ほう。これは隠岐からも見せてもらった。すごいな。地図のその場所はなんだ?」
松若丸「はい。まずこの設計図は父上に差し上げます。この地図の場所ですが、この地に牧場、菜園、薬草園を作ってはどうかと。」
信秀「ほう。それはいい考えだ。が、その技術はあるのか?まあ隠岐の件があるから、できないことを言うようなそちでもあるまい。いいぞ。主水と隠岐と相談してやってみよ。明日の朝呼び出すから、その場でお主の命に従うよう申し付けよう。お主も参れ。わしにもできることがあれば言ってくれ。」
松若丸「はい。ありがとうございます。」
信秀「確かに皆が神童というのもわかるような気がするな。わしには思い浮かばなかった。よい嫡男を持った。では、明日な。」
松若丸「ありがとうございます。今後も精進致します。では、失礼致します。」
すんなり話が通ってよかったと思いながら父上の部屋を出た。
待っていてくれた千凛丸と、今度は自室へと廊下を歩く。
千凛丸「若、良かったですね!」
松若丸「おう、ありがとう。」
千凛丸「若、差し出がましいかもしれませぬが、私も計画のお役に立てませんでしょうか。お三方のように神童とはいかないかもしれませぬが、精一杯、若のお役に立てるように励みます。何卒宜しくお願い致します。」
松若丸「そんな改まって。もちろん千凛丸にも協力をお願いするよ。宜しくな。そんな風に思わせてしまってすまないな。」
千凛丸「有難き幸せ。この命尽きるまで生涯若に尽くします!」
松若丸「お、おう。よろしくー。」
千凛丸よ、ごめんな。ありがとう。