第五章 77話 与一と巳六
1554年3月7日
采女が西国から帰ってきて二日、考えてもわからない。俺にできることは、ここでの選定を早く終わらせ、父上と話し、長尾景虎殿を攻め、明智を討ち取ることだ。そうすれば、きっと今回のたくらみは解決するのではないか。そして義輝様には気を付けて頂くように手紙を送ったが、もう一度、もし万一の際には大峰領にお逃げ頂くようにお願いしよう。八善屋甚右衛門にも、もしもの時は義輝様を送ってもらうようにお願いをしておこう。そうしてまた手紙を書いた。
選定は本日の十人を面接したら終わる。そしたら城に戻ろう。
半兵衛「殿、室賀備後様がお越しになりました。」
備後?父上か?
信輝「入ってもらってくれ。」
室賀備後「若、挨拶は抜きにさせて頂きますぞ。殿がお呼びです。すぐに城にお戻りくだされ。」
信輝「わかった。ただ、あと十人だけなんだ。少しだけ待ってくれ。」
室賀備後「少しだけですぞ。それまでわしもここにおります。」
信輝「わかった。半兵衛、少し早いが始めるように伝えてくれ。」
半兵衛「ハッ。」
そして、予定より早く始めてもらい。八人の中から一人を決めた。これで青竜は予定より多いが五百五十人になった。まあ、きりがよくなったな。あと二人か。
室賀備後「もうよろしいですかな?若戻りましょう。殿がお待ちです。」
信輝「わかったよ。じゃあ最後の二人は、特別に二人同時に呼んでくれ。」
半兵衛「ハッ。」
そして最後の二人が呼ばれてきた。
若い。
「失礼致します。須坂の高井より参りました与一と申します。親は高井の農民です。」
「同じく巳六と申します。私の親もです。」
二人は用意された床几に座る。
信輝「若いな。本当にここの兵か?」
与一「はい。まだ私もこの巳六も9ですが、昨年の夏、試験を受け兵として頂きました。」
巳六「はい!」
信輝「ミロクとは弥勒菩薩の弥勒か?」
巳六「いえ、巳年に生まれた六男なので巳六と名付けられました!」
信輝「巳六か。なるほど。ふたりはなぜ、俺の青竜に応募したのだ?」
与一「はい。私たちは元々、武衛様に憧れており、昨年の夏、武衛様が京よりお戻りとなることを聞き、募兵に応募させて頂きました。」
信輝「ほう。そうなのか。」
巳六「はい!!お会いできて光栄であります!」
信輝「そうか。でもまだ二人は9なのだろう?兵としては若すぎないか?」
与一「はい。いえ、武衛様もお若い頃から戦には出ておられたと聞いております。腕があれば問題ないかと思います。」
巳六「腕には自信があります!」
信輝「そうなのか。この半年と少しの間で、訓練は辛くなかったか?」
与一「はい。訓練は辛かったですが、武衛様のお役に立てるようになるためと思い精進してまいりました。それに、新しいことを覚えることは楽しいものです。辛いだけではありませんでした。」
巳六「武衛様のお役に立ちたいです!」
何この子。与一めっちゃ優秀じゃん。農民か。これだよ。こういう子を探したいから学校作るんだよ。巳六はおまけかな?
書類を見てみる。
ん?上野、大蔵の面接結果、二人とも合格。又左衛門、正左衛門、作左衛門の手合わせの結果、二人とも合格。備前、肥後、陸奥の面接、手合わせの結果、二人とも合格。肥後のメモ。いらなかったらくれ。
そんなにか。どれ、手合わせしてみるか。
信輝「そうか。では手合わせしてみるか。」
与一・巳六「はい!」
信輝「二人同時でもいいけど、どうする?」
与一・巳六「一人ずつお願い致します!」
信輝「そうか。じゃあどっちからにする?獲物は?」
与一「では私からお願い致します。私は刀です。」
信輝「わかった。じゃあ竹刀で。遠慮せずに打ってきて。」
与一「はい。宜しくお願い致します。」
与一は頭を下げた。俺も合わせて礼をする。
構えた。
マジか。9歳でこれか。与一合格。これなら兵にも受かるわ。
しばらく構え合う。
与一「参りました。全く打てる気がしません。」
信輝「相手の力量がわかることも実力のうちだ。じゃあ次は巳六だ。」
与一「はい。」
肩を落とす与一。
それを見て余計に張り切る巳六
巳六「私は槍でお願いします!」
礼をする巳六。俺も礼を返す。俺は竹刀のまま。巳六は担保槍を構える。
シュッ!
危ねっ!顔をかすった!いきなりか!
シュッ!
うおっ!危ねっ!
シュッ!シュッ!
危ねっ!
これ以上はダメだ!
シュッ!
信輝「ハッ!!」
巳六の担保槍を絡めとり弾く。
カランカラン。
驚く巳六と与一。
巳六「ま、参りました。」
信輝「いい腕だった。」
巳六「ありがとうございます。」
俺の考えは決まった。
二人を床几に座らせた。
結果を聞く段階になり、めっちゃ緊張しているのが合わる。
信輝「二人は青竜に入りたいか?」
与一・巳六「はい!入りたいです!」
信輝「そうか。残念だが、二人は青竜には入れないことにした。」
尋常じゃなく悲しそうな顔をする二人。
与一「そう…ですか。」
巳六「…。」
信輝「いや、まだ最後まで聞いてくれ。二人の実力はわかった。二人が俺を慕ってくれているのも十分伝わった。ただ、二人はまだ若い。よって、二人には俺の小姓になってもらおうと思うのだが、どうだろう?もしそうなったら、兵になるより学んでもらうことは多くなるが。」
尋常じゃなく嬉しそうな顔をする二人。
与一「よ、よ、よろしいのですか!?」
巳六「ありがとうございます!」
巳六は既に泣いている。
与一「私たちのような身分が下の者を小姓になどして頂いてよろしいのでしょうか?」
冷静だな。でも大事なことだ。
信輝「問題ない。これからは出自など関係なく、優秀な者を家臣にしていこうと決めたのだ。」
与一「では…。ありがとうございます!宜しくお願い致します!この命、全て武衛様に捧げます!」
巳六「私も捧げます!」
信輝「宜しく頼むな。では早速今から城に戻る。部屋の荷物を持って来い。」
与一・巳六「はい!」
二人は走って行った。
室賀備後「よかったですな、若。だが、農民でもよろしいので?」
信輝「備後、いいのだ。あの二人は伸びるぞ。半兵衛負けてられないな。」
半兵衛「はい。」
冷めてる半兵衛。
信輝「久作、俺の荷物はまとめてあるか?」
久作「ハッ。」
信輝「源五郎、練兵場の者に帰ると伝えてきてくれ。」
源五郎「ハッ。」
信輝「三右衛門、皆に帰ること伝えてくれ。とりあえず今回選定した兵たちはこのまま、ここにいてもらおう。」
三右衛門「畏まりました。」
そして、六神隊の将たち、俺の小姓たちが集まった。与一、巳六もちゃんと来た。
今回選定した六神隊の兵たちは、とりあえずは元のまま須坂練兵場にいた者たちはここに、家から通っていた者たちも、今までと同じように練兵場に通い訓練を続けてもらうことにした。今後、学校の建設が完成したら、六神隊用の施設も考えよう。
こうして、俺たちは二ヵ月いた須坂練兵場を後にした。




