第四章 57話 三国同盟と次代の不安
1553年10月1日
いよいよ同盟の日が来た。
善徳寺ならぬ小田原城の会盟だ。
だが、三国の一つが違う。
今まで川中島の戦いとか山崎の戦いとかやってきたけど、三国同盟も参加するとは思わなかった。
昨日は、あれから、武田義信殿と姉とのことを聞いたら、申し出を受けることにしたと。
俺にはまだたくさん兄弟姉妹がいるらしい。父の弟妹もまだいるらしい。
父上は、今は当主だから全て把握しているということだが、祖父が当主の時には父上も色々知らないことがあったらしい。曾祖父も祖父も婚姻政策を行ってきたわけだから、子供はたくさんいたようだ。
父上も祖父が隠居する時に聞いて驚いたということだった。
あと、屋敷の話にもなった
大峰城の設計図を見て、俺の屋敷は広いから政庁を兼ねているのか聞いたら笑われた。
あれは俺の私的な屋敷であって政庁は別だった。だとしたらものすごく広い。何LDKか。いやLもDもいくつかある。とにかく広い。帰ったら使い方考えないと。
祖父や師匠と話して今回のようなことのために最初から随分と広く作ってあるらしい。
まだまだ人が住めると。
もういいです。
ちょっとそういう風な話かと思って照れて言ったら、祖父や父上を見習って子はたくさん作らないとダメだと真剣に怒られた。
政治的な話だと。
昨日の話はこれくらい。
今日は、小田原城の大広間に行った。
事前に決めていたように、そこには、三家の当主、嫡男、一族筆頭。
北条家は氏康殿、氏政殿、幻庵殿。
武田家は晴信殿、義信殿、信繁殿
大峰家は父信秀、信輝、大久保伊勢叔父が来ていた。
終始、話し合いは和やかに進んだ。
北条氏康殿はとにかく前向き。
可愛い娘のためなら、上州にもこだわらない。
信輝も気に入った。春をよろしく頼む。というようなことを言っていた。
今は、上総、下総、安房を完全に支配し、常陸に進んで行きたいらしい。
武田晴信殿も前向きだった。
三年前に家臣が寝返ったときは、最初は怒っていたが、今は可愛い娘に付けた家臣だと思えば気にならない。
気に入った信輝に、家臣にくれてやったと思うことにした。見をよろしく頼む。と同じようなことを言っていた。
今は駿河と、海が欲しい。軍を率いて上洛したいらしい。
武田の嫡男、義信殿は、武田信玄に謀反を起こし腹を切らされた人、という印象があったが、見ると聞くとは大違い。見た面もスラっとして、人当たりも良く、育ちのいい美形貴公子みたいな感じの人だった。俺の一つ上の15歳。母親の三条氏は公家の出で、見た目は良くなかったと何かで見たが、絶対に綺麗な人だろう。そうじゃないとこうはならない。母親似だ。見殿も母親似であれ。
同母妹が俺の側室になり、義信殿の正室になる姉は、俺の一つ上で義信殿と同い年、そして俺の同母姉。だからか、義信殿は俺にすごく親近感を持ってくれたみたいだ。この人となら仲良くなれそうだ。きっと素直な人で、厳しく育てられたんだろう。真面目な性格だから、色々と真剣に考え、結果、謀反のような形になってしまったのかもしれない。でも、今川家の姫を正室にしないことになったため、謀反などにはならず、きっとこの人が武田家を継ぐだろう。晴信殿も義信殿と仲良さそうだし。
そして氏政殿。義信殿の同母妹の梅殿が正室となっているため、義信殿にはいくらか心を許しているようだ。
しかし、氏政殿はこの会盟を小田原城で行ったことで、北条家が盟主で武田、大峰が属国だと勘違いをしているようだ。義信殿にも上からだった。
俺にはとにかく突っかかってきた。見殿も氏政殿の正室梅殿の同母妹だが、それは関係ないらしい。
春殿は氏政殿の異母姉で、氏康殿が一番可愛がっていた。
さらに、大峰から北条には誰も嫁がない。
最後に極めつけは、何で属国に北条家が力で手に入れた上州一国を渡さなきゃいけないのか、大峰の次男坊ごときが関東管領を継がなきゃいけないのか。どちらも北条家のものだ、というニュアンスのことを言っていた。
氏康殿は何も言わない。長男が亡くなったから、次男の氏政殿は甘やかされて育ったようだ。
これでは氏康殿がいなくなったらどうなるかわからない
三国同盟は婚姻の話と、今後のそれぞれが進む方向、そして領地の境をどうするかということが主だった。
大峰、北条領の境は、南は今の群馬と埼玉と同じように、神流川、利根川を境にして、東は伊勢崎までが大峰領、上州でも桐生、太田、館林は北条領となった。
大峰、武田領の境は単純に、信濃の諏訪、伊奈が武田領で、他の信濃は大峰領となった。
こうして、大峰、武田、北条の三国同盟は無事に結ばれた。
すごい父上。
要因は色々あったにせよ、今川家のあの天才軍師、太原崇孚雪斎を出し抜いた!
そして利害も一致している。
次代には不安が残ったが。
北条は東、武田は南、西に進むというので、大峰はじゃあ北に進むということになった。
最近、越後の晴景殿からしきりと援軍の依頼が来ており、そろそろ出兵しようとしていたと父上が言っていた。
いよいよ、上杉謙信と戦うことになった 今は長尾景虎だが。
その後、三家交じっての宴となった。
当主三人は、うちから持ってきた清酒、焼酎、ワインを飲んで、結構盛り上がっているようだ。
こちらは嫡男たち。
義信「改めて、二人ともこれから宜しく頼む。義兄として恥じない者になろう。」
信輝「宜しくお願いします。」
氏政「よろしく。」
義信「信輝殿は、京に行かれたのだろ?京はいかがであった?」
信輝「はい。最初は戦で荒れていて大変でしたが、今は公方様のお力で平穏となっています。」
義信「そうか。私も京に上ってみたいものだ。」
氏政「そういえば、信輝。公方様から刀を頂いたそうだな。上州の代わりにそれを私に渡せ。」
何言ってるんだこいつ。
信輝「申し訳ございません。それは出来かねます。」
氏政「何だと。なぜだ?」
何でやらなきゃいけないんだ。
信輝「公方様から頂戴した大切な刀なので。」
氏政「ふん、では脇差を寄越せ。」
義信「氏政殿、無茶を言われるなよ。」
氏政「なぜだ!わしの言うことが聞けないのか!」
大きな声を出した氏政に周りが気付き、この目出度い日の目出度い場を壊す気かと、一気に皆が白けた。
それに気づいた北条家臣が寄ってきた。
「若、お酔いになられているようですな。こちらで休みましょう。失礼致す。」
そう言って連れて行った。
氏康殿は気付いていたが何も言わず、また三人で話していた。
義信「とんだ目にあったな。氏政殿には気を付けような。」
信輝「はい。」
義信「信輝殿とはこれから仲良くしていけそうな気がするよ。二重の縁での義兄弟だ。頼むな。」
信輝「はい。私もです。こちらこそ宜しくお願いします。」
氏政殿には困ったが、本当に義信殿はいい人だった。
そういえば、北条氏政って飯に二度汁をかけたって話の氏政か。なるほどな。
そこそこでお開きになり、無事に小田原城の会盟は終わった。




