第四章 55話 関東管領と三国同盟
1553年9月26日
昨日の話があったため、俺はしばらく八善屋の小田原の支店にいることにした。
兵たち五百は先に大峰領に帰すことにして、加藤正左衛門、作左衛門、福島市兵衛、村上義清と側近三名、蜂須賀彦衛門と蜂須賀党に指揮して行ってもらった。
詩と回りの者たち、藤孝にも先に行ってもらった。
風魔と争うのを避けるために、大岩衆五人、戸隠衆五人、出浦衆五人を残して忍の大部分も先に帰ってもらった。
残ったのは、室賀備前、山下肥後、中村陸奥、大久保近江、黒田下総、真田左衛門尉、上泉伊豆、須田長門、中野大蔵、山県三郎兵衛、前田又左衛門、半兵衛、久作、源五郎、鍋之助、亀丸、三右衛門、出浦清種、佐々内蔵助、木下藤吉郎、木下小竹丸だ。だいぶ身軽になったな。
皆一つの大部屋で泊まっている。
今は暇潰しに何人かは出掛けている。
俺は部屋の窓から海を見ていた。
又兵衛「殿、よろしいでしょうか?」
信輝「うん、ここでいいよ。」
又兵衛「はい。昨日、北条軍により、上野の平井城が落城し、上杉憲政様は信濃に向かって落ちられたそうです。そしてその途中、落ち武者狩りに襲われたと。」
信輝「なんと、本当に。それで?」
又兵衛「龍岡城の黒田掃部様の兵に助けられ、龍岡城に運ばれ、大殿、武蔵様が龍岡城に向かわれたようです。まだそこまでの情報ですのでわかり次第お伝えします。」
信輝「わかった。ありがとう。上野の武将たちはどうなったかわかる?」
又兵衛「上杉方として戦に参加したほとんどの者は討ち死にしたみたいです。それほど激しい戦だったようで。」
信輝「長野業正殿は?」
又兵衛「長野殿も討ち死にされています。」
信輝「そうか。上杉憲政様がどうなったか、またわかったら教えて。」
又兵衛「ハッ。」
昨日、氏康殿が言っていたのは本当だった。
そして、そんな気がしてたけど、上杉憲政様は長尾景虎殿ではなく、うちを頼ったと。
まあ、まだ越後落ち着いてないしね。そうなるか。
で、賊に襲われたと。それは予想できなかった。
上杉憲政様、人気なかったからな。農民たちかな?
戸隠衆付けておいてあげればよかったかな?でも戦あるの知らなかったしな。
そうか。船酔いでダウンしてる間に動いたんだ。
船もうやめようかな。
今回みたいなことになったら取り返しつかなくなるし。
1553年9月27日
今日も特にやることもなく朝から散歩に行って、昼時になり一度帰って来た。
部屋で少し休憩していた。
又兵衛「殿、お話しても?」
信輝「いいよ。」
又兵衛「昨日お話しした上杉憲政様の続きですが、襲われた時の傷が元で亡くなられました。そして、分かったことですが、上杉憲政様のご子息たちも皆亡くなられたそうです。」
信輝「そうか。」
又兵衛「そこで、上杉憲政様が最期に、武蔵様を上杉家の跡取りにと懇願されたらしく。」
信輝「そうなるだろうな。」
又兵衛「大殿がお受けになりました。」
信輝「だろうな。じゃあ、武蔵は上杉家の名跡を継いで、関東管領も名乗るのか?」
又兵衛「おそらく。」
信輝「義輝様にお伺いを立ててからになるだろうがな。」
又兵衛「そうなりますな。」
信輝「わかった。ありがとう。北条家からの使者は?」
又兵衛「はい、龍岡城に大殿がおられたので、想定より早く返事をもらい、明日頃には小田原に戻ってくるかと。」
信輝「そうか。そうなったら当然受けるよな。」
又兵衛「そうなりますな。」
信輝「わかった。ありがとう。」
又兵衛「あと、武田からの使者も大殿と会われていたようです。」
信輝「武田から?何だろ?わかる?」
又兵衛「そこまでは。申し訳ございません。」
信輝「大丈夫。わかった。ありがとう。わかったらまた教えて。」
又兵衛「ハッ。」
1553年9月29日
結局また幻庵殿が参られたのは二日後だった。
幻庵「失礼致す。大峰領へ行っていた使者が戻りました。お越し頂いてよろしいかな?」
信輝「わかりました。」
何も言わずに、備前、肥後、陸奥が従う。
そして今日は先日の屋敷ではなく、城内の大広間へと通された。
上段に氏康殿がいる。
周りに重臣たちもいる。
そしてもう一人上段に来ている。誰だ?その周りに護衛のような人たちもいる。
なんとなく予想はできるけど。
もしそうだったらすごいな。
俺が少し前に座り、三人が俺の後ろに座った。
氏康「武衛殿、よく参られた!」
武田晴信「武田大膳大夫晴信である。」
やっぱり!マジかよ!氏康殿と晴信殿の夢の共演!
善徳寺の会盟でも実際に会ったかどうかはわからないと言われている二人が!
信輝「大峰右兵衛督信輝と申します。」
氏康「武衛殿、さっそく本題に入るぞ。先日話した件、大峰殿が承知された!」
でしょうね。
氏康「だが、今回それだけはないのだ。」
晴信「うむ、わしも北条殿と同じことを考えておってな。我が娘の見を側室としてお主にもらってもらい同盟をと大峰殿に申し入れたのじゃ。わしは、北条殿ほど大盤振る舞いはできなんだが。小県、佐久の武田が抑えている分を完全に大峰殿に渡すとしてな。そしたら、大峰殿が北条殿のことも正直に申されて、大峰、北条、武田で同盟を結んではどうかということになったのじゃ。」
氏康「そして、武田殿がここにおられることでもうお分かりかと思うが、同盟を結ぶことにしたというわけよ。大峰殿も今こちらに向かっておる。」
驚きすぎて何も言えない。
三国同盟にうちが入るとは。
よく父上は了承したな。
そしてこの歴史的に有名すぎる二人もよくそれでよしとしたな。
晴信「わしの娘は既に北条殿の子息、氏政殿の正室となっておる。そして今回、北条殿の娘、春殿と、わしの娘、見がお主の側室となる。大峰殿に申し入れておるが、おそらくわしの子息、義信の妻にお主の姉をもらうことになるだろう。」
ん?なんかいびつな感じがするけどいいのか?
ってか俺に姉がいるのですか?知らなかった。
なんて言ったらいいかわからん。全く。
氏康「これは目出度いな。晴信殿と話し合い、まずはこれをお主に伝えようと本日は呼んだのじゃ。」
信輝「ハッ。」
晴信「まあ混乱するのも無理ないな。」
氏康「大峰殿が参られるのにはあと一日、二日はかかろう。本日はこれで下がってよいぞ。また城下に呼びに行かせる。大義であった。」
信輝「ハッ。」
俺の意見とかないわけね。まあ父上が了承しているならそうなるか。
とりあえず戻ろう。
嵐のような親父たちだった。
戦国の英雄たちはそうなのか。
ほとんど喋ってない。
俺たちは今日も何も言えずに八善屋に戻った。




