第四章 52話 大和と堺
1553年9月6日
義輝様や前久様に見送られ、俺たちは京を出立した。
俺と、近臣衆、小姓衆、又兵衛と大岩衆、采女と戸隠衆の一部、兵のうち三十は奈良に向かう。
一応、ここで名前を挙げておくと、室賀備前守輝賢、山下肥後守輝和、中村陸奥守輝憲、大久保近江守信幸、黒田下総守信達、真田左衛門尉信綱、上泉伊豆守秀胤、須田長門守満親、中野大蔵少輔忠頼、山県三郎兵衛昌景、加藤正左衛門清忠、加藤作左衛門清重、前田又左衛門が近臣衆。
皆、立派な名前になったもんだ。
小姓衆は、竹中半兵衛重治、竹中久作重矩、真田源五郎、本多鍋之助、榊原亀丸、奥田三右衛門。
これに、肥後の家臣の出浦清種と出浦衆、佐々内蔵助成政、福島市兵衛正信、陸奥の家臣の村上義清と側近三名、木下藤吉郎、木下小竹丸、蜂須賀彦右衛門正勝と蜂須賀党もいる。
全部で六十人くらいいるから、目立たないようにと思っても目立つ。
今日は、東大寺にお世話になります。例のごとく寄進をして。
采女に探してもらったところ、既に柳生宗厳殿も、島左近殿も奈良に入っている。これは大丈夫だろう。
又兵衛が言うには松永久秀も多分大丈夫そう。
詩には藤孝殿に護衛をお願いして先に堺へ、残り四百七十の兵と共に行ってもらった。さらに、周りは戸隠衆が固めているから絶対こっちより安全になっている。堺まではずっと将軍直轄領だし。
問題はやっぱりこっちだ。
何が起きるかわからないから気を付けながら、南部馬を飛ばして奈良に入った。
朝早く出たのでまだ昼前だ。
初めて来たけど、京とは違った雰囲気だな。
寺社勢力が強いって聞いたけど、それがこの雰囲気なのか。寺社がいっぱいある。
奥ゆかしい感じか。わからんけど。色がこう、渋いっていうか暗いっていうか、趣がある街並みって言ったらいいのか。これが古都奈良平城京か。
「頼もう!!」
一人の男が声を掛けてきた。体はかなり大きいが、まだ元服したばかりで俺と同年代って感じ。
『鑑定』で調べてみると、やっぱり島左近清興殿だった。
いきなりこの行列目掛けて一人で来るなんて度胸あるな。
信輝「長門、頼む。」
一番近くにいた長門守満親に頼む。
話を聞いてやったようだ。
長門「殿、よろしいでしょうか。島左近殿と申されるそうです。殿の家臣になりたいそうです。」
信輝「ありがとう。連れてきて。」
俺は馬を降りた。
島左近「初めまして。島左近と申します。家臣にして下され。」
信輝「ほう。どうして我らに?」
左近「奈良に行けば、良い人に巡り合える。そしてその人の家臣にしてもらえと聞こえたような気がしたからです。大峰様の噂はきいております。信濃に帰られるとか。私は、大和平群郡の島城主の息子なのですが、継母と上手くいかず出てきました。このまま連れて行って下され。」
信輝「そうか。よし、連れて行こう。よろしく。」
左近「え、よろしいのですか!ありがとうございます!宜しくお願い致します!」
今話に出てきた親と弟を皆殺しにしたとか、謀略を好んだとかそんな感じ全くしなかった。これは思っていた以上によかった。
信輝「じゃあ東大寺に行くからこのままついてきて。」
左近「はい!」
じゃあ行くかと馬に乗った。
そして、ほとんど進まないうちにまた声が聞こえた。
「頼もう!!」
いや、今の左近とのやり取り絶対見てたでしょってくらいすぐだった。
信輝「長門!」
長門「ハッ!」
『鑑定』をすると、やはり柳生家厳、宗厳親子だった。
長門「殿。」
信輝「通していいよ。」
乗ったばかりの馬からまた降りた。
柳生家厳「お初にお目にかかります。拙者、大和柳生庄の柳生家厳と申します。先ほどのやり取りを勝手ながら拝見仕った。我が子息も家臣としてやっては頂けませんでしょうか?」
柳生宗厳「宜しくお願い致します。」
信輝「大峰右兵衛督と申します。柳生殿は何か武術を?」
柳生宗厳「はい、富田流と新当流の剣術を少々。」
信輝「そうですか。では宜しくお願いします。」
柳生家厳「よろしいのですか!ありがとうございます。」
柳生宗厳「柳生新次郎宗厳と申します。これから宜しくお願い致します。」
信輝「用事終わったな。どうする?まだ昼前だよ。」
肥後「終わったならもういいんじゃない?東大寺見たい?」
陸奥「ちょっと見たいけど、ここにいるリスク高いじゃん。」
信輝「そうだね。じゃあ、東大寺には寄進だけして、泊まらないでもう行こう!生駒山超えるか?」
左近「私がご案内します。どちらへ?」
信輝「助かるわ。堺に行きたい。なるべく松永家を刺激しない道で頼む。」
左近「畏まりました。」
新しい二人も馬に乗せて、左近の案内ですぐに大和を出て、夕方には堺についた。
堺は堀と塀に囲まれて、自衛のための兵士を雇っていた。
俺たちは八善屋の客だと伝えると、事前に話を通してくれていたのか門を通してもらえた。
なんだこれは!
町でかっ!ていうか変!
この時代の南蛮人ってヨーロッパか?
紅毛人とか言われてる人もいるよな。
あれがイギリスか?
南蛮人はスペイン、ポルトガルか?
わからん。いろんな文化がごちゃごちゃに混在してて渋滞してる。景色が目にうるさい。
とにかく使える色全部使ってますよって感じ。
そんな中をきょろきょろしながら八善屋の支店まで進んで行った。完全に田舎もんって感じ。
八善屋の支店に入り、用意してくれていた部屋に案内してもらった。
詩「お早いお着きでしたね。ご無事で何よりです。」
信輝「うん。用事が早く終わってね。そっちも大丈夫だった?」
詩「はい、皆さんに守って頂いたので問題ありませんでした。」
信輝「それならよかった。じゃあ。俺、八善屋に挨拶してくるね。」
詩「はい、行ってらっしゃいませ。」
急に実家を離れて不安かなと思って一応顔見に来たけど、どうやら大丈夫そうだ。
侍女が何人か一緒に来てるもんな。よかった。
甚右衛門が来ていたので挨拶に行った。
信輝「また世話を掛けて申し訳ないです。あと、今更だけど、三年前は無理をきいて頂いて、ありがとうございました。お陰で命が助かりました。」
甚右衛門「いえ。大峰家にはいつもお世話になっているので。それはそうと、ご昇進とご結婚おめでとうございます。何でも右兵衛督におなりになったとか。武衛様ですね。何かお祝いを差し上げたいと思いますが、何か今欲しいものはございませんか?」
信輝「ありがとうございます。そんな、いつもお世話になっていますので。」
甚右衛門「お世話になっているのはこちらこそですよ。十年前から始めさせて頂いた商売でこちらの身代は何倍にもなりましたから。」
信輝「そうなんですか?じゃあ、また思い付いたらお願いしますね。」
甚右衛門「畏まりました。また新しい物があれば是非。倅も宜しくお願い致します。風呂の用意が出来ておりますので、ご都合の宜しい時にどうぞ。」
信輝「わかりました。ありがとうございます。」
その日は、八善屋あげてのおもてなしをしてもらった。六百人近くの人に対して至れり尽くせりだった。詩や詩の侍女たちも喜んでいた。
身代が俺のお陰で何倍にもってのはあながち嘘でもないらしい。でも、こちらも売上の六割ももらってるからな。お互いにいい関係ができてよかったよ。




