第三章 43話 十倍の敵と軍議
1550年9月1日
結局、六角家から蒲生定秀殿、賢秀殿が兵三百を連れて援軍として来てくれた。
あとの結果は、五山と足利家が少し仲良くなったことと、兵が少し増えたくらいだった。兵は五百五十人になった。
合わせて兵八百五十。
松若丸「なかなか難しいな。ここまでくると、我々で戦うしかないな。でも今は三百大きいよね。」
竹千代「そうだな。」
辰千代「皆呼んで軍議にする?」
松若丸「最終判断は義輝様だけど、戦うとなったらどうするか俺らだけでも話しておくか。」
千凛丸「わかりました。皆を呼んできます。」
俺の部屋に皆が集まった。
松若丸「皆、三好勢が攻めて来るにあたって、戦となった時の作戦を決めておきたい。それについて意見を言ってくれ。」
地図を広げる。
付近が広く描かれてある地図と、京の市街が描かれている地図を事前に辰千代に描いてもらっておいた。
そのとき又兵衛が帰ってきた。
又兵衛「失礼致します。」
松若丸「又兵衛、お帰り、お疲れ。三好勢はどう?」
又兵衛「ハッ。現在、摂津の富田辺りまで来ています。あと二日ほどで京に到着するかと。それと、数が増えています。三好実休殿と安宅冬康殿、松永久秀殿が兵を率いて加わったようです。合わせて八千五百程。」
そっちは『神託』効かなかったか。
松若丸「そうか。時間かかったのはそれか。戦うとしたら場所はどこがいいかな。少人数のこちらが勝つには地形も利用した方がいいだろうが。」
又兵衛「そうですね。広い平原より山や丘川が入り組んでいた方がいいと思います。」
竹千代「市街戦はやめた方がいいよな。」
辰千代「城に拠って戦うか、城ではない場所で戦うかもじゃない?」
千凛丸「先日は奇襲でしたし、我々の存在をまだ誰も認識していませんでしたからね。」
鷹千代「今回は我々が主力みたいなもんですから、当然警戒されますよね。」
源太郎「大峰銃の存在はまだ知られていないんじゃないですか?先日は突っ込む前に一度放っただけですから」
源四郎「でも鉄砲を撃ったということくらいは知られているのではないですか?」
満親「鉄砲はまだそれほど脅威としては思われていないと思いますよ。」
長福丸「鉄砲と言ってもほとんど火縄銃ですからね。若が最初に買ったような。」
鷹千代「あれは使えませんでしたね。」
信房「しかし、川中島では鉄砲の威力と戦術に驚きました。」
源左衛門「川中島のようにできたらいいですな。我らはその時、負けた側ですから痛いほどその威力は身に染みています。」
秀胤「今回は大峰銃だけでは勝てませんよね?数が少ない。」
正左衛門「川中島の戦い、参加したかったです。」
市兵衛「参加したかったです。」
三左衛門「今回も鉄砲と騎馬の戦いになるのでしょうか?」
松若丸「そうだね。数は少ないけど、大峰銃を上手く使って、敵の指揮者を倒していくのがいいかもね。」
竹千代「そしたら平野での戦いでもいいか。」
辰千代「相手は鉄砲持っているのかな?持ってても火縄銃だろうけど。」
又兵衛「鉄砲は二百丁程あるようです。」
松若丸「雨の日だったらいいね。」
千凛丸「そしたら相手は鉄砲使えませんからね。」
信房「でも、二百丁の鉄砲では最初から敵も主力とは考えていないのではないですか?」
源四郎「そうですね。主力はやはりまだ槍、弓、騎馬ですよ。」
義清「わしも発言していいか?騎馬での戦いでも、相手の馬とこちらの南部馬では圧倒的に有利だと思うぞ。南部馬と比べたら、木曽の馬でも仔馬に見えるからな。」
松若丸「そういえば十河一存殿が乗っていた馬も小さかったし、義輝様が乗っていた馬も小さかったね。」
源左衛門「騎馬隊と言えばあれが普通ですよ。南部馬が大きいのです。」
正左衛門「初めて南部馬を見たときは驚きました。」
源太郎「今回も三好勢の馬は南部馬より小さいでしょうな。」
辰千代「そしたら数が多くても勝てるか。」
長福丸「多少でしたらね。今回は十倍ですよ。」
鷹千代「奇襲を掛けますか?」
秀胤「斬り込みますか?」
満親「夜襲を掛けてもいいかもしれませんね。」
松若丸「夜襲を掛けるとしたら鉄砲も南部馬も使えないよね?」
源太郎「忍衆と夜襲を掛けますか?」
源四郎「夜襲なら勝てますね。」
竹千代「将軍家の戦で夜襲でいいのか?」
辰千代「あんまり印象良くないんじゃない?」
義清「戦は正々堂々と行った方がよい。」
松若丸「確かにな。俺たちの戦じゃないもんな。」
辰千代「そしたら鉄砲はいいの?」
義清「鉄砲は戦の戦略の一つでござろう。」
信房「そうですね。鉄砲だから卑怯とはならないと思います。」
秀胤「一騎打ちで決めるとかになったら苦労しないんですけどね。」
満親「それだったらいいですね。」
源太郎「つまり、敵に数を使わせなければいいわけですな。」
信房「とすると、やはり地形を上手く使うしかないでしょう。」
源四郎「このあたりで隘路などがあればそこに敵を誘導しますか。」
鷹千代「この辺りにありましたか?」
長福丸「この山科から南禅寺に入るときに通った道はどうですか?」
正左衛門「あの道は狭かったですね。」
三左衛門「奇襲も掛けられますね。」
松若丸「そこの道なら使えるかもしれないけど、こっちの南側から回り込まれたら意味ないよね。」
竹千代「結局、地形を使った戦いの方がいいのか。」
辰千代「まあその方がいいだろうね。」
長福丸「正々堂々ではない気がします。」
鷹千代「正々堂々って言ったらどっか平野で戦いますか?」
秀胤「その方が勝った時に得るものは大きいですよね。」
松若丸「そうか。勝つだけじゃなくて、政治も考えないといけないのか。」
忠頼「今回はそこまで考えなくてもいいと思いますよ。八百の兵で八千の敵に勝ったということが政治的には大事です。」
辰千代「そうだな。そしたらあとは交渉だな。」
竹千代「将軍家の領地を三好側から取れればいいけどな。」
長福丸「そんなことができるのですか?」
鷹千代「それができたらいいですね。」
忠頼「大勝できれば可能かもしれません。」
源太郎「その前にまずはどう戦うかでしょう。」
信房「そうですな。」
千凛丸「若、どうしますか?」
地図を見て考えた。
ここ山崎じゃん。
光秀が秀吉を迎え撃とうとしたあの。
そういえば光秀が秀吉の軍より少なかったからここで地の利を得ようとしたとかなんとか。
今回は数が全然違うから参考にはならないかもしれないけど、天王山を先に取っておけばいくらかいいか。
よし、ここでやるか。
川中島に続いて、山崎の戦い。
松若丸「やっぱり外に出て戦おう。山崎の辺りまで出て、山崎で戦うのはどうだろうか。」
地図を指す。
松若丸「この辺なら地形も有利に使えそうだし、平野もあるから正々堂々にもなるでしょ。ここなら大峰銃も使えるし、南部馬も使えるし。具体的に誰がどうするかはまた考えるとして。」
竹千代「天王山か。」
辰千代「いきなり天王山か!いいね!」
松若丸「半兵衛、どう思う?」
それまで黙っていた半兵衛に振った。
半兵衛「いいと思います。今仰ったように、この天王山を取るのが要でしょう。」
松若丸「そうだな。皆の意見もある程度反映されたよね。これで義輝様に話してみようと思うけどいいよね?」
一同「ハッ。」
義輝様のところへ行き、三好勢が摂津富田辺りまで来ていること、三好実休殿、安宅冬康殿、松永久秀殿が合流し兵が増えたこと、戦術として山崎まで出て戦うのはどうかと進言した。
その後、すぐに軍議が開かれ俺の案が採用された。
意外だったのは晴元が賛成したことだ。何かあるな。
采女に頼んで配下に見張ってもらうことにした。
十倍の敵か。




